Interview Magazine  1995.6
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ヴィゴになる方法

Q: 若手俳優で “クールな男部門” の上位にランキングされるのは?
A: ヴィゴ・モーテンセン。
Q: その通り。では、もっとクールになるためにはどうすればいいか?
A: パトリシア・アークエットを手に入れること。

トニー・スコット監督の、冷戦後を描いたサスペンス「クリムゾン・タイド」で、ヴィゴ・モーテンセンは緊張感にあふれる、素晴らしい演技をみせた。彼が演じたのは原子力潜水艦の武器担当大尉。彼だけが、ミサイルの発射コードを知っており、タカ派の艦長ジーン・ハックマンと、規則に厳しい副艦長デンゼル・ワシントンの間に起こる争いに巻き込まれてしまう。

デンマーク系ニューヨーカーである彼が、こういった作品に出演するのは極めて珍しい。今まで彼が選んできたのは、セレブ的な賞賛をまったく期待しない作品で、その結果、「柔らかい殻」や「インディアン・ランナー」で見せた、影のある、どこかとがった印象を保ち続けているのだ。ヴィゴはめったにインタビューを受けないのだが、今回は、我々が送り込む大胆不敵なインタビュアーの “尋問” を受けてくれることになった。インタビュアーは、パトリシア・アークエット。「インディアン・ランナー」では彼の相手役を演じ、「トゥルー・ロマンス」で一緒に仕事をしたトニー・スコットの熱烈な信望者でもある。

PA(パトリシア・アークエット): さっき、少し録音したんだけど、ヴィゴがテープレコーダーをチェックして、巻き戻して、全部消しちゃいました。はい、ここでレッスン・ワン!(ヴィゴ・笑)「彼は、信じられないほど薄くて、趣味の悪いポリエステルのシャツを着た、コントロール・フリークである」オーケー、ヴィゴ。まず最初の質問は・・・。
VM(ヴィゴ・モーテンセン): ハッピー・バースデー・ベイビー!

PA: まあ、ありがとう。
VM: どういたしまして。君のために、黄色いチューリップを探したんだけどね。なかなかいいのが見つからなくて。

カリステモン PA: チューリップ度が足りなかったの?
VM: あまり、フレッシュじゃなかったんだ。

PA: お気使い、ありがとう。(テープに向かって)彼、きれいなバラをくれたの。ヴィゴ、自分を花にたとえるなら、どんな花かしら?
VM: 今日はね、先のとがった、小さくて赤いカリステモン(訳注:別名ブラシノキ。瓶を洗うブラシに似ている植物)ってところかな。

PA: いつでも周りを、蜂がたくさん群がってるのね。オーケー、ヴィグ。ガーデニングのワンポイント・アドバイスをお願い。なめくじが、いちごを全部食べちゃいました。さて、どうすればいいの?
VM: ビールを入れた小さなボウルを下に置くといいよ。

PA: どうなるの?
VM: なめくじが、そこに寄っていって、落ちる。彼らはたぶん、幸せな気分で死ねるよ。ビールなら、銃弾より環境に優しい。

PA: では、次の質問。3人のおばあちゃんが、教会に礼拝に行った後、ピクニックにやってきます。お勧めメニューは何?
VM: 彼女たちが、どんな人かによるな。

PA: だから、3人の信心深いおばあちゃんよ!
VM: クリスチャンかな?

PA: そうね。あなたは? ルーテル教会? わかったわ。じゃあ、ルーテル教会の人たちのために、私はどんな料理を作ってあげたらいいの?
VM: ちょっとイメージがわいてきた。僕は、普段、あまり豚肉は食べないんだけど、普通にチョイスするなら、最初に出てくるのは豚肉だろうね。

PA: ポーク・プレイトだけ? ベーコン、ハム、生ハム。他には?
VM: ケーキだね。チョコレート・ケーキ。

PA: さあ、ここからは、ちょっと検察官風に質問してみるわ。水曜日の午後7時半、あなたはどこにいましたか?
VM: バイクに乗っていて、タイヤがパンクした。

PA: 今年になって、何回、服も靴もつけたままで寝ましたか?
VM: 確か、ここ2週間は毎晩。うちのカウチ、見たことあったっけ?

PA: ノルウェーのボブスレーみたいなやつ?
VM: そうそう。ベッドみたいだろ?

PA: それでは。トニー・スコットのことを、どれだけ好きか話して。私以上に彼を愛している人がいるなんて、信じられないんだもの。
VM: 君があんまり彼のことを好きだって言うもんだから、その気になっちゃったんだよ。「クリムゾン・タイド」で、出演者全員、あのピッタリしたカーキのユニフォームが似合っていたのは、偶然じゃないんだよ。リハーサルが終わった後、トニーが自分のポケットマネーで、全員に脂肪吸引を受けさせたんだから。

PA: (笑)「トゥルー・ロマンス」でも、彼、同じことをしたわよ。
VM: 「トゥルー・ロマンス」で、クリストファー・ウォーケンがちょっと “イケナイ” シーンを追加撮影したって聞いたけど、ほんと? デニス・ホッパーが言ってたよ。

PA: してないわよ。デニスは、あなたを面白がらせようと思って、そんなことを言ったんだわ。そういえば、「クリムゾン・タイド」は、もう見たの?
VM: 全編通して、ちゃんとは見てないよ。僕が演じたのは、とんでもない状況に置かれた普通の男。とても難しい決断を迫られる役どころなんだ。仕事や家庭がちゃんとしている人物を演じるのは、大きな斧を振り回す役よりいいね。でも、怖いことでもあるんだよ。だって、そういう役って、型にはまった演技を要求されるからね。道徳観念が欠如した役なら、そんなことはないだろ? 今回の作品では、暴力的な部分とか、作り物の牙を背後に匂わせる演技はできなかった。

PA: 私は、彼との仕事で、たくさんのことを学んだわ。
VM: 彼が毎日、あんなピンクの短パンをはいたり、葉巻を吸ったりしなくなったら、何か変わるかな?

PA: それは関係ないと思うけど(笑)。でも、あのピンクの短パンがなくなっちゃったら、私が彼のために作り直して、まったく同じように、はき古した感じに仕上げてあげるわ。
VM: 彼はきっと、あの1着しか持っていないと思うよ。左頬には、葉巻でつけた火傷の跡かなんかがあるよね。たぶん、「トップ・ガン」の頃からあるんだ。あ、あの短パンは、5、6着作ってあげるといい。それにしても、トニーって、たいした男だと思うよ。なぜって、スタッフやキャストからアイディアを出されても、絶対に動じないんだ。「トゥルー・ロマンス」の時もそうだった?

PA: まったくその通り。最初は「その案は、どうかなあ」って言うんだけど、私たちが実際に撮影してみると、「いいじゃないか、そのやり方でいこう」って。さて、私たちは今、ハリウッドの “スノー・ホワイト(白雪姫)・カフェ” にいます。あえて言うなら、“トニー・スコット・ファンクラブ” ね。

PA: モーテンセンさん、「インディアン・ランナー」で共演できて、とても光栄だったわ。
VM: こちらこそ。

PA: 感傷的な言葉は使いたくないんだけど、あなたは本当に、あの役にのめり込んでたわよね。新鮮でエキセントリックなアイディアも、たくさん持ってた。
VM: ありがとう。君もだよ。(お互いを称えて)君とのシーンは、とても楽しめた。うまくいかなかったテイクでも、常にすごく素敵なことが起るって感じで。贈り物をもらうようなものだよね。

PA: 私たちはお互いに助け合って、お互いの意見にも耳を傾けたわよね。それって、とても大切なことよ。俳優って、キュー・サインが出たらいつでも感情を盛り上げなくちゃいけないじゃない。でも、どうしても、そうできない時があるのよね。やる気は充分あっても、できないの。
VM: 僕は “コントロール・フリーク” だからね。演じるときに、その人物がどんな人間なのか、正面から取り組みたいんだ。でも、一緒に仕事をする相手まで、コントロールしようとは思わないよ。まあ、他人をコントロールしている人物を演じるとしたら、その時は・・・わかるもんか! 決まったルールなんて、ないからね。でも、仕事に入るたびに、すべてを白紙に戻して、まったく新しいアプローチができたら、もっと高いところに行けるんだろうな。

PA: ヴィゴ、私、今日で27歳になったの。激励の言葉をちょうだい。この先、何が待っているのかしら?
VM: そうだね、今、君は幸せそうに見えるし、いい仕事もしている。演技の話をしている時に思うのは、君はとても自分に厳しいってこと。僕も同じだからよくわかる。それが、君がいつも素晴らしい演技を見せられる理由のひとつにもなってるんだ。僕は、ずっとそのままの、完璧な君でいてほしい。でも、あまり自分を痛めつけないで、役柄を楽しむのもいいよ。まあ、僕よりうまくやれそうだから、わざわざ言うまでもないか。

PA: 正直に生きようと思ったら、仕事にも正直に取り組みたいと思うの。だからもし、何かの理由でうまくできなかったとしても、それをスクリーンにそのまま映したい。その時点では、あまり気分が良くないと思うけど、結局はそれが正しいってこと、あるもの。ただ、流れに身を任せればいいのよね。
VM: 賛成。ポイントAからポイントBまでたどり着けなかったとしても、ベストなシーンになることだってある。

PA: あなたから、たくさんのことを教わったわ。一度、私がどうしても演じるのが辛いことがあって、その時あなたは、「いいかい、この役を演じているのは、世界で君ひとりなんだよ。誰も、彼女がどういうリアクションを取るのかわからない。それを知っているのは、君ひとりなんだ。だから、君がどう演じようと、それが正しいのさ」って言ってくれた。なんだか、目からウロコが落ちる気分だったわ。
VM: まったく完璧なんてことは、ありえないからね。陳腐な言い方かもしれないけど、ゴールがあるとして―ありきたりだけど、人生のゴールってことも含めてね―それは幸せになるってことだと思うんだよ。どんな惨めなヤツを演じているとしても。

PA: 素晴らしいゴールだと思うわ。
VM: “インタビュー誌” は、僕たちに5分ばかりしゃべってもらいたかったんじゃなかったっけ?

PA: そうよ。でも、うんざりするほど長くなっちゃったわね。
VM: 君はまだ、演じることが好きかい?

PA: 大好きよ。
VM: 僕もだ。

PA: ノルウェーのボブスレーみたいに?
VM: そう、ベッドみたいな。

PA: 時には、傷つけられることがあっても、それが人生よね。
VM: それでも、続けるさ。

PA: オーライ!ヴィグ!
VM: 覚悟はできてる。

translated by chica