La Opinión  1995.9.8
悪魔の中の悪魔

By Ferran Viladevall

悪魔にインタビューするというのは、すべてのジャーナリストの夢である。昨日、私は、フィクション・ヴァージョンではあるものの、ルシファーに会う機会を得た。黒いスーツも、邪悪な角も、先のとがった尻尾も、焦げ臭い匂いも、そこにはなかった。オリーブ・グリーンのスーツを着こなし、やわらかいソファに所在なさげな様子で、彼がいた。彼は私を見てゆっくりと立ち上がり、「モーテンセンです。ヴィゴ・モーテンセン」と言って、力強く握手の手を差し伸べた。

悪魔の名前は、ヴィゴ・モーテンセン。デンマークの血を引くニューヨーク生まれの男である。彼は、単なるルシファーではない。天上の争いを地上に持ち込むことの難しさを描いた『プロフェシー』に登場した、印象的な悪魔である。クリストファー・ウォーケンが演じた大天使ガブリエル率いる天使たちは、人間たちへのとめどないジェラシーに取りつかれ、神に反旗をひるがえす。人間たちは長い間、神々に見守られ、楽しんで成長してきたのだ。こうした状況を考えれば、地獄の使者の登場は必然であると言えよう。ルシファーは、この戦いを自分の優位に進めるために行動を起こす。人間たちが天使の反乱軍に立ち向かえば、二つ目の地獄は必要なくなるから。二つ目の地獄が出来れば、悪魔は顧客を奪われてしまうのだ。

愉快な発言など許されないような乾いた空気の中、インタビューは始まった。まず驚かされたのは、ヴィゴ・モーテンセンが完璧なスペイン語を話すということだった。「10年間、アルゼンチンに住んでいたんだよ」と、彼は私が驚いているのに気づいて満足げに微笑んだ。ヴィゴは不思議な人である。そのゆっくりとした動きは、まるで呼吸をするのさえ困難なように見えるし、ようやく聞き取れるほどの声のトーンは、しゃべることで自分の一部が失われるのを恐れているようだ。ルシファーが悪者であることは明らかである。しかし、悪者は彼だけではないようだ。「誰でも、少しは悪い部分を持っているんだよ」とヴィゴは言う。「でも、誰もが自分を善人だと思っている。隠れた部分に悪の残りカスがあるなんて、気づかないんだ」。ルシファーの発言としては、悪くない。「彼をかばうわけじゃないよ」と、ルシファーについて彼は言う。「悪と同じように、僕は善も信じているんだ」。

彼は、この映画への出演を即座に決めたという。あっという間に事が運び、撮影が行なわれるアリゾナへ向かう飛行機の中で、彼は台本を読んだ。「ずっとクリストファー・ウォーケンと仕事をしたいと思っていたから、出演を決めたんだ」と、ソファーの隅の方に座って、俳優は口を開く。ウォーケンの名前を口にした途端、彼の顔は輝いた。クリストファー・ウォーケンは、最近の若手俳優の間でカルト的存在になっている。「彼と一緒にできるんなら、大歓迎だよ。それがどんな作品でもね」。

演じる役柄のルーツを探求することは、俳優にとって自然なプロセスである。「僕は、演じるキャラクターがどこから来たのか知りたいんだ。どこで生まれたのか、家族はいるのかって」。一口でグラス半分ほどの水を飲み、ヴィゴは主張した。ルシファーから思い浮かぶのは、悪の権化、そして地獄の支配者といったイメージであり、はっきりとした経歴ではない。歴史をたどってみたところで、その見かけについての記述はたくさん見つかるものの、どれも的確とは言えないだろう。「だからこそ、僕は悪魔を思うように演じられたんだ」と、ヴィゴ・モーテンセンは大きく口を広げて笑った。「誰もルシファーを知らない。だから、自分流に演じたよ。僕の視点でね」。

会話が進んでくるにつれ、周りの空気も変わってきていた。ヴィゴがリラックスしている。動きが活発になり、声も段々高くなってきていた。インタビュー開始直後に感じたような、ミステリアスなオーラは影をひそめている。「この役柄で最も魅力的だと思ったのは、彼がまったく疑いを持っていないところなんだ。行動のすべてに、明確な理由がある」と、彼は断言した。「悪魔っていうのは、望むことは何でもできるし、どんな姿にもなれるんだよ」。ヴィゴはため息をつく。「怪物みたいな姿や長い爪なんか、必要ないんだ」。悪魔は時として、人間たちを誘惑するために、その現れかたにも気を使わなくてはならない。「共感を得られる姿になることは必要だね」と、北欧系の名前を持ち、アメリカ出身の、スペイン語を流暢に話す俳優は言った。

この映画の中では、善悪問わず天上のキャラクターたちが、ことあるごとにかがみこんでいる。「そうなんだ。すごく不思議だよね。監督のグレゴリー・ワイデンは、猛禽(鷲、鷹、隼、フクロウ等)をイメージしてあんな格好をさせたんじゃないかな。常に隠れていて、行動に移る機会を待っているって感じで」。

自分の仕事をチェックしない俳優や女優は多い。スクリーンで改めて自分の姿を見たくないのだ。「僕は見るよ。そうだな・・・最初の映画は見なかったけど。今は、仕事を始めたら、撮影したものを見たい。監督がどんな仕事をしているのか、自分の動きは他の俳優とどんな風に関わっているのかを学ぶためにね」。ヴィゴ・モーテンセンは、ルシファー以外にも数え切れないほどの役を演じている。残酷なボスから、FBIエージェントまで。アンジェラ・モリナと共演した『ギムレット』でスペインに滞在した後、彼は、俳優仲間のケビン・スペイシー(『ユージュアル・サスペクツ』)が監督する『アルビノ・アリゲーター』に出演することになっている。その後も、ほとんど休みを取らず、シルベスター・スタローンの『デイライト』の撮影で、ローマへ向かうことになっている。「スタローン映画に出るってことは、正義の味方には絶対になれないってことだよね。(映画が終わる)120分後に生きていられたら、ラッキーだよ」と、共犯者を探すかのように大きく目を見開いた。彼は、スタローンと共演するのと同時に、『ある貴婦人の肖像』への出演も決めている。ジェーン・カンピオン(『ピアノ・レッスン』)監督、ニコール・キッドマン主演の新作である。これらの役がすべて、ルシファーと同じ人物の中から生まれる。「障害は、俳優にとって一番のトレーニングになるんだよ。困難が多ければ多いほど、得るものも多い。後で新しい役柄にチャレンジするときの財産になるんだ」。ヴィゴは言葉を止めずに続ける。「それにさ、たくさんの問題や違った役を抱えていると、気が紛れていいんだ。いつもありのままの自分でいると、退屈しちゃうだろ?」

インタビューの締めくくりに、普通はエピローグを付け加える。考えた結果、私はヴィゴに、俳優としての自分を表現してもらうことにした。一言で、彼の性格や行動を最も適格に現わす言葉。少しの間考えると、「一言で?」と言いながら、彼は顎をさすった。「うろうろしている猫だな」。(筆者注:「馬鹿なことをしでかす猫」という意味にも取れる)

translated by chica