Premiere  1997.2 原文
Viggo, Vidi, Vici 〜 ヴィゴ、見て、うっとり 〜

By Jodie Burke

決して手当たり次第にバッド・ボーイを演じてきたわけではないヴィゴ・モーテンセン。彼が次に選んだのは、『ある貴婦人の肖像』での紳士的な役柄である。

バッド・ボーイを演じさせたら右に出るものはいないヴィゴ・モーテンセンが、取材の場所に選んだのは “白雪姫カフェ” である。これは何かの皮肉なのだろうか。彼は今、大きな “プリンス・チャーミング” (訳注:シンデレラの王子様)の肖像画の真下に座っている。『カリートの道』では、盗聴器をつけた車椅子の前科者を演じ、アル・パチーノを裏切ろうとする。ショーン・ペンの『インディアン・ランナー』では、必死に働こうとしながらも、バーでデニス・ホッパーの頭を叩き潰したために、妻を置き去りにする。そして『デイライト』では、“なりきりヒーロー” として、悲惨にもシルベスタ・スタローンの救助活動に先んじようとする。『プロフェシー』では、クリストファー・ウォーケンの心臓をもぎ取り、噛み切ってしまう。そう、ルシファーとして。これが、彼が今まで演じたきた役柄だ。その彼が、椅子を引いてくれ、雨も悪くないなどと言い、『Ten Last Night』というタイトルの自作の詩集を手渡してくれたとしたら。それは、驚き以外の何ものでもないだろう。こういうことのできる男。彼は詩を書く。とても良い詩を。彼こそが、本物の紳士だ。

『ある貴婦人の肖像』の監督であるジェーン・カンピオンは、初対面の時、彼はシャイだったと言う。「ニコール・キッドマンと私は、実際、彼を痛めつけなくちゃいけなかったの。私たちは彼のことを “坊や” って呼んでたわ。昔からの仲間みたいに接してもらおうとして。もちろん、最終的にはとても馴染めたんだけど、彼をコントロールすることはできなかったわね」。『ある貴婦人の肖像』で、彼が演じたのはキャスパー・グッドウッド。ニコール・キッドマンの求婚者の一人で、長年恋に苦しんできた、果敢な男である。「キャスパーは、しつこい男なんだよ。“愛してるよ。どんなに長い間でも、待てるさ” って言い続けるんだ。感心するよ」と、モーテンセンは言う。しかし、彼が過去で演じてきた、タトゥーを入れたタフ・ガイたちが部屋にあふれているとして、彼らの前でどんなふうに、こんな熱烈なロマンティストを演じようというのだろう。永遠の愛を叫びながら、ヨーロッパ中、ひとりの女性を追う男。タフ・ガイたちは、そんな男を哀れだと思わないだろうか? モーテンセンは肩をすくめる。「本当に誰かを愛している男の、どこが哀れなんだい?」

次回作では、デミ・ムーアを一人前にするために鍛え上げるモーテンセンを見ることができる。ネイビー・シールで初めての女性志願者を訓練する司令官、マスター・チーフという役である。リドリー・スコットの監督作品で、仮タイトルは『In Pursuit of Honor』(訳注:直訳すると『名誉を追い求めて』。もちろん、『G.Iジェーン』のことです)。モーテンセンは、この役のリサーチに数ヶ月間費やしたが、実際に撮影が始まるまで、ムーア―彼の言うところの “爪のようにタフ” な女性―とは、一緒にワーク・アウトを行なっていない。「ある意味、孤独な仕事なんだ」。マスター・チーフについて、モーテンセンは語る。「この男はリーダーだからね、(訓練生たちとは)距離を置かなくてはいけない。孤立する必要があるんだ。彼らを完全に支配できるようなレベルから、まず始めなくちゃならなかった」。驚いたことにモーテンセンは、『ある貴婦人の肖像』で演じた19世紀のロマンティストと、『G.Iジェーン』の非情なマスター・チーフとの間に、類似点を見出している。「二人とも、紳士だと思うよ。映画の最後には、マスター・チーフが本当に古いタイプの倫理基準を持っているってことがわかるはずだ」

『ある貴婦人の肖像』で、ジョン・マルコビッチを始めとするキャラクターたちが、言葉でつばぜり合いを演じたり、視線でお互いを傷つけたりするのに対し、モーテンセンは究極の武器を巧みに使っている。熱い思いを身体で示す、シンプルなキスを。彼は、キスが好きなのだろうか? 「簡潔に答えるとするなら、Yesだと思うよ。キスをすることも、しないでおくことも」。モーテンセンの説明によれば、それは映画のテーマを表現するのに、極めて重要なことなのだそうだ。しないでおくのも、重要? 彼は、かつて演じた悪魔のように笑う。答えは謎めいていた。「時には、待つのもいいもんだよ」

この記事のタイトルは、ラテン語の格言「veni, vidi, vici」をもじったものみたいです。ジュリアス・シーザーが戦勝報告として伝えた言葉で、英語にすると「I came, I saw, I won」。「来た、見た、勝った」となります。

translated by chica