Cleveland Plain Dealer  1999.4.1 原文
芸術家&俳優 ヴィゴ

By Jae-Ha Kim

(ロサンゼルス発)
裸足。着ているのはくたびれたスウェット。ヴィゴ・モーテンセンが、自己紹介をするために歩いてくる。彼の手は、留守番電話をチェックした時に自分で書いた名前や電話番号で埋め尽くされている。そして、彼のくしゃくしゃな髪の毛には、ポツポツと絵の具がはねていた。これらのどれを持ってしても、モーテンセンのシャクにさわるほどの美貌を隠すことはできない。

Track16ギャラリーの前に、若い女性の集団がたむろしている。そこで行われているモーテンセンのアート展(グウィネス・パルトロウ、アナ・パキン、ダイアン・レインといった共演女優の写真も展示されている)で、ヴィゴに一目でも会えるのではないかと思っているのだ。恥ずかしそうに父親の側に立っている11歳になる彼の息子ヘンリーは、当然それに気づいていた。

「俳優がどれだけやれるか見てやろうっていう好奇心から、個展に来ている人もいるだろうね」と、モーテンセンは言う。「それは全然かまわない。他人がどう思うか、気にしながら仕事をしたことはないんだ。この先も、それは変わらないよ」

モーテンセンの最新作は金曜日から公開になる『オーバー・ザ・ムーン』である。ダスティン・ホフマンがプロデュースするこの作品は、1月に行われたサンダンス映画祭で好評を博し、モーテンセンとダイアン・レインの演技も高い評価を受けた。モーテンセンが演じたのはウォーカー・ジェローム。1969年の夏、このセクシーなブラウス売りは、不満を押し殺して過ごしている主婦パール・カントロウィッツ(ダイアン・レイン)に言い寄るのである。

「1969年の夏、僕は10歳だったんだ。だから、あの時代の、本当に不思議な雰囲気は憶えていない」と、モーテンセンは言う。「10歳と言えば、ただの子供だからね。目の前で起きていることを、受け入れることしかできない。結局、僕はこのキャラクターをつかむために、数年前に亡くなった義理の兄のジェフを参考にしたんだ」

「ウォーカーのことを、ヒッピーだと表現する人もいるよね。だけど、本当は違うんだ。彼は、ヒッピー世代よりも少し年上なんだよ。たぶん、ジャズやビート・ジェネレーションの方に影響を受けているんじゃないかな。物事を少しだけオープンに見ることができる。彼にとって、それはウッドストックに限ったことじゃないんだ」

どちらかと言えばウォーカーは、洗練度が低いヴァージョンのモーテンセンではないだろうか。別れた妻のイクシーン・セルヴェンカ(パンク・バンドXのメンバー)と今も親友だということは、モーテンセンの楽天的な性格を考えれば納得できる。ちなみに、ジョン・ドウとも友達なのだが、彼はセルヴェンカの元バンド仲間というだけでなく、“もうひとりの元夫” でもある。

モーテンセンは大学卒業後にも、自由な精神に基づいた生活を送っている。父親の出身地であるデンマークの路上で花を売り、牧歌的に暮らしていたのだ。俳優になるためにアメリカに戻って来るまで、税金とは無縁の生活だった。 「路上でバラを売っていたんだ」と、彼は言った。「人と関わり合いを持つのが楽しかったよ。普段は、あまり人づきあいが得意なほうじゃないんだけどね。夜が明けるとコペンハーゲンの市場に行って、卸でスイートピーを買うんだ。で、それを街で売る。この上ない生き方だったな」 笑いながら、彼はつけ加えた。「雨さえ降らなければね」

『ダイヤルM』、『G.I. ジェーン』、『カリートの道』、『ある貴婦人の肖像』等で評論家から喝采を受けたモーテンセンは、現代のルネッサンス・マンである。彼は優れた詩人であり、ミュージシャン、画家、そして写真家だ。また、このマンハッタン生まれの旅好きなアーティストは、デンマーク語とスペイン語に堪能でもある。

なんだか申し訳なさそうに、モーテンセンが言う。「家が散らかり放題なんだ。常に仕事をしているから、片づける時間がなくて」

彼の絵や写真、詩が掲載され、詩の朗読と歌が収録されたCDのついた『Recent Forgeries』(スマート・アート・プレスより発売/$27)を持っている人なら、この言葉にうなづけるだろう。この作品集のトップページには、とても散らかった彼の家の写真が堂々と掲載されているのだから。

モーテンセンの作品は、雑誌『Flaunt』最新号の表紙も飾っており、この雑誌には、親友デニス・ホッパーによるインタビューも掲載されている。デニス・ホッパーとモーテンセンは『インディアン・ランナー』と『ボイリング・ポイント』で共演した。そして、モーテンセンが『ダイヤルM』でうさん臭いアーティストを演じるにあたって、映画に登場する絵をすべて自分で描くと決めた時、ホッパーは彼に自分のスタジオを貸している。

モーテンセンは、近々サンフランシスコのシティ・ライツ・ブックセンターでポエトリー・リーディングを行なうことになっている。そして秋には、いろいろな場所の大学を廻りたいのだと言う。来年早々には、ニューヨークで個展を行なう可能性もある。

しかし今は、次回作となるサンドラ・ブロック主演の『28Days』に気持ちを集中している。撮影はノースカロライナとニューヨークで行われる予定だ。

「サンドラが主役、僕は野球のピッチャーの役なんだ。すごく面白そうだろ?」と、モーテンセンは言う。「野球のことは、あまりよく知らないんだ。好きだけどね、それほど詳しくない。だから、アリゾナとフロリダで行われていたスプリング・キャンプに参加したんだよ。スプリング・キャンプは終盤になると、ある種の緊張状態になるっていうのは聞いていた。選手たちにとっては、クビになるか、マイナーリーグ送りになるかの瀬戸際だからね。でも、そんな状況なのに、選手たちは本当に素晴らしくて、僕によくしてくれたよ」

これまでの実績を考えれば、モーテンセンの履歴書に “アスリート” という項目が追加されるのも、時間の問題である。

translated by chica