Journal Sentinel  2002.3.24 原文
指輪の俳優の2つの傷跡が示唆するもの

ハリウッドにとって、ヒロイズムは表面だけ

By Gemma Tarlach

顔の傷跡は、長い間文学作品で悪人のシンボルとして使われてきた。映画ではなおさらだ。『ライオン・キング』やジェームズ・ボンド映画が良い例だ。しかし、映画制作者は、思い悩むヒーローを伝えるために、しばしば俳優の本物の傷跡を使う。

『ロード・オブ・ザ・リング』を例にとろう。俳優のヴィゴ・モーテンセンとショーン・ビーンは、勇敢な旅の仲間のメンバーを演じている。2人とも、実際に顔に目立つ傷跡があるが、映画ではビーンの傷跡だけが目に付くようになっている。

「勇者アラゴルンを演じるヴィゴの傷跡は、髭でほぼ完璧に隠れています。」 Skinema.comで俳優たちの肌の状態を分析するサンフランシスコの皮膚科医ヴェイル・リースはこう言う。「しかし、ビーンの場合、彼が演じるボロミアは悪に向かうかの瀬戸際にいます。彼の傷跡は隠されていません。」 リースはこう付け加える。

モーテンセンが『ダイヤルM』で悪役を演じた時、上唇の上にある傷跡は一目瞭然だった。強調されていたとも言える、とリースは指摘する。反対に、ビーンが1997年の『アンナ・カレーニナ』でロマンティックな主人公を演じた時、左目の上の傷跡を判別するのは難しかった。モーテンセンの傷跡を隠したのは、単に、アラゴルンは髭を生やしているという、J.R.R.トールキンの描写に忠実だっただけかもしれない。しかし、原作にはボロミアに傷跡があるという描写はない。

「彼らが無意識のうちにどのくらい気付いているかは分かりませんが、俳優をキャスティングする時、ショーン自身を見ないで、ある程度あの傷跡について考えるのか、知りたいですね。」とリースは言う。

『パトリオット・ゲーム』撮影時に現場の事故で得た傷跡がボロミア役を得るのに一役買ったかは分からないが、傷跡がヒーローの抱える葛藤を象徴するというのは、ハリウッドが発明したことではない。「ある民話では、ヒーローは身体的に傷を負っています。」 シェイクスピア学者で、悪人の描写を研究しているミランダ・ジョンソン=ハダドは言う。「ボロミアの場合は見事に上手くいきました。彼は間違いなく、葛藤に苦しむ役柄ですから。」と彼女は言う。「彼の傷を見ても、人は戦いで得た名誉ある傷だと思うでしょう。しかし、彼は少し正気でないところがあるということも示しているのです。」

ボロミアだけが問題や傷跡を持つ唯一のヒーローではない。性格俳優のトミー・フラナガンは、ナイフで襲われひどい傷を負ったが、『ブレイブハート』での復讐に燃える戦士に見られる、複雑だが勇ましい脇役を演じることでキャリアを築き上げた。 ローレンス・フィッシュバーンも顔に傷跡があるが、彼もまた一見善人には見えない善人を演じることがある。もっとも顕著なのは、『マトリックス』のモーフィアス役だろう。「ローレンスには、『ロード・オブ・ザ・リング』でボロミアを演じるショーン・ビーンと同じぐらいに印象的な傷跡があります。」とリースは言う。「ほとんどの映画では、彼は悪人なのか善人なのか、はっきりと分からないことが多いですね。」

translated by yoyo