Studio Magazine  2002.12
chez.com のスキャン TORn の英訳
戦士の魂

by Juliette Michaud

『ロード・オブ・ザ・リング』のヒーローは、詩人でもあり、写真家、そして画家でもある。この非凡な俳優は、本誌だけにこれまでのキャリアを語り、彼の世界を見せてくれた。彼は本当に、多才なアーティストである。

ロサンゼルスのフォーシーズンズ・ホテルの一室。彼の短い髪は小麦色のブロンドで、それが驚くほどピュアな視線を際立たせている。物憂げな声、素足。彼は『Hidalgo』撮影中のモロッコから帰ってきたばかりだ。シンプルなジーンズと色あせたスウェットシャツを着て、指には『ロード・オブ・ザ・リング』の監督ピーター・ジャクソン(PJ)とそのパートナーであるフラン・ウォルシュからもらった指輪をはめている。首につけているのは緑色のエルフの石。普段は南アメリカのマテ茶を愛飲している彼だが、今夜はひどく寒いにもかかわらず、私たちと一緒にボルドー・ワインを飲んでいる。デンマークの女性記者が残していった輸入煙草をふかしながら。

Q: 『旅の仲間』のあと、『二つの塔』ではどんなことが待ち受けているのでしょうか。

話がどんどんタフに、絶望的になっていくんだ。旅の仲間が離れ離れになるからね。僕が演じるアラゴルンは、新たな責任感を持つことになる。それが彼を、さらに美しくも悲劇的な状況に追い込んでいく。『二つの塔』で僕が最も好きな部分は、過去や未来、夢や希望といったものが、実に自由に組み立てられているってことなんだ。PJは三部作を通じて、色々な角度から難題に取り組んだんだよ。この第二作で、新たに登場するものもある。バイキングの国(訳注:たぶんローハンのこと)にはビックリさせられるし、ミナス・ティリスの街なんて、信じられないくらいすごい。それ以外は・・・見てのお楽しみ!

Q: 三部作を18ヶ月かけて同時に撮影して、その後も追加撮影を行なったんですよね。

追加撮影は予想していたからね。毎年、撮影に合った時期を選んでニュージーランドに戻るんだ。来年も『王の帰還』の追加撮影で戻ることになる。『二つの塔』で今年戻った時には、ほとんどが回想シーンの撮影だったよ。

Q: あなたは、撮影が始まった後、最後にキャスティングされたんですよね。それはハンディになりましたか?

知っていると思うけど、僕はスチュアート・タウンゼントの代わりにキャスティングされたんだ。スチュアートには、全く落ち度がなかったんだよ。ただ単に、ピーターがアラゴルン役に求めたのは、僕みたいな老犬だったってことなんだ(彼は44歳になったばかりである)。僕が心配だったのは、準備する時間がないってことだけ。トールキンの原作も読んでなかったし。それから、こんなに長い時間、家族と離れなくちゃいけないっていうことでも躊躇した。でも、一緒に生活している僕の息子が、励ましてくれたんだ。それで、できるだけ台本や原作を読んだ。それだけじゃなくて、トールキンが影響を受けたような中世のフランスやスペインの詩も読んだよ。この読書は楽しかったな。同時に剣術にも熱中したよ。最初に撮影したのが戦いの場面だったんだ。だから、僕が最初にアラゴルンのキャラクターとして注目したのは、肉体的な強さだった。

Q: アラゴルンというのは、どんな人物だと思いますか?

王になりたくない王。永遠の命を持つ者と恋に落ちる、限りある命の人間・・・アラゴルンを理解するには、時間がかかるんだ。長い間、彼はサウロンに対して、自分の身元を隠しておかなくてはならなかった。ヌメノリアンの最後の血筋だからね。同時に、彼は自分の祖先とは違うと感じている。彼の祖先は、勇敢だったけれど、指輪の力に負けてしまったんだ。彼は、自分もまた、その力に屈服してしまうのではないかと恐れていて、精神的に追い詰められている。俳優にとって、こういう、表には出さないけれど、微妙に、少しずつ成長していくっていう役は、とても興味深いよ。

Q: 『ロード〜』のストーリーで、最も共感したのはどんな部分ですか?

これは、色々な種族が、世界を救うために仲間になるっていう話なんだ。全世界がテロリズムと戦っている今の時代と、比べることは簡単にできるよね。この作品が珍しいのは、登場人物の単なるアクションだけじゃなくて、内面的な戦いも描いていることなんだ。原作で気に入った部分は、たくさんの異なった意味が含まれているってこと。トールキンは、神話や文学、詩、昔話、言語を最高の形で組み合わせたんだ。僕はケルト神話についての知識があったから、アラゴルンのキャラクターにすぐ馴染むことができた。僕の父はデンマーク人で、僕もデンマークに住んでいたことがあるんだ。だから、北欧神話にも馴染みがある。北欧神話では、英雄も、神も、弱さを持っているんだよ。すごく人間的なんだ。僕はアラゴルンを、北欧の英雄をすべて合わせたような人物として捉えたんだ。まあ、戦う前に歌ったりする北欧の英雄たちよりは、ちょっと現代的だけど。アラゴルンは、言葉よりも行動で示すタイプだから。

Q: 撮影がない時にも、アラゴルンになりきっていて、衣裳もつけたままだったとか・・・。

それが僕のやり方なんだ。撮影中は、ずっとアラゴルンのアクセサリーをつけていたよ。『Hidalgo』の撮影でも、衣裳のブーツを履きっぱなしだったし。『ロード〜』では、撮影開始後に合流したから、できるだけ早くアラゴルンになりきらなきゃいけなかったんだ。だから、自分の顔に早く衣裳を馴染ませたかった。だからそう、ずっと衣裳は着たままだったし、撮影がない時でも剣を持ち歩いていたよ。PJも、この叙事詩をできるだけリアルに描くために、僕らが役に没頭できるような体制を作ってくれた。

Q: 撮影クルーはクタクタだったんじゃありませんか?彼らから聞いた話では、あなたは戦闘シーンで歯を折ってしまったって・・・。

本当だよ(彼は前歯を見せてくれた)。でも、たいしたことじゃないよ(と手をヒラヒラさせる)。クルーも含めて、みんな、大小問わず怪我をしていたよ。この程度で済んで、ラッキーだったくらい(笑)。とにかく、みんな万全の準備を整えていた。ピーターは、僕らにインスピレーションと力をくれたんだ。あの場所で撮影できたことで、僕らは素晴らしい物語を作ることができた。でも、ほんとのところ、一日がものすごく長かったよ。何週間も何ヶ月も、休みなしだったんだ。特に戦闘シーンは大変だった。できるだけスタントも自分でやったし。幸運にも、時間が経つにつれて、スタントマンたちとは仲良くなれたよ。お互いをよく知ることで、傷を負わせることなく、スムーズに撮影を進めることができたんだ。スムーズとは言っても、かなり長い時間の撮影になったんだけどね。『二つの塔』では、僕らが3ヶ月に渡って毎晩撮影した戦闘シーンが登場する。聞いた話では、スクリーン上では10分程度になっちゃうらしいけど!

Q: 撮影中のPJはどんな感じだったのでしょう?

ホビットだね!すごい集中力を見せながら、どんな状況の時も穏やかで。隅々まで目を配って、この巨大な計画をやりとげるなんて、他の誰も真似できないと思うよ。彼は一日に4時間しか眠らなかったんだ。それでも、最初から最後まで、精力的に動いていた。

Q: 撮影中、現実を見失ってしまうことはありませんでしたか?

『二つの塔』では、さっき話したように3ヶ月も戦闘シーンを撮影していたんだ!ベッドに入ると、吸血鬼みたいな気分になったよ。で、目覚める時は幽霊みたいな気分!不思議な夢も見たな。ほとんどが殺戮の夢・・・周りの状況があまりにもリアルなんで、ほとんど役柄と同化していたよ。いつも寒くて、じめじめしていて、周りには1本の木もないんだ。完全に孤立した場所で、非現実的な光景だったよ・・・そんなわけで、戦闘シーンの撮影の間、脚本と現実がごっちゃになった。役者同士で、本当の仲間意識が生まれたよ。

Q: と言うと?

不思議な力で結びついているって感じ。今でもそれは続いているんだ。ほとんどの出演者たちと、今でも連絡を取り合っているし、イライジャ・ウッドとはすごく親しくしているよ。今まで仕事した中で、一番素晴らしい仲間たちだ。チーム・スピリットが高まっていくストーリーだってことで、僕らも同じように盛り上がったんだね。これは、そんなにあることじゃないんだけど、撮影が始まってすぐに、お互いをいたわり合えるようになっていた。とにかく、奇跡のようなキャスティングだったね。ガンダルフを演じたイアン・マッケランとか。彼は、本当にきっちり準備をしてきていた。やるべきことを、きっちり理解していたんだ。ユーモアのセンスもあって、すごく豊かな人生を歩んでるって感じだな。すごい偶然なんだけど、イアンは僕の舞台を見に来たことがあったんだ。ずっと昔、まだ僕が知られていなかった頃に・・・。ニュージーランドでの撮影も、チーム・スピリットを強めてくれたよ。この国は、島国ならではの精神っていうのがあって。一緒に仕事をすればわかると思うけど。

Q: 三部作を通して、アラゴルンは王になる運命を受け入れていくんですよね・・・。あなたの目から見て、一作目での成功によって、俳優として何か変わったことはありますか?急に超有名になったってことで、何か変わりました?

本質的に変わりはないよ。急にファンレターが増えたこと以外は。仕事の依頼という意味では、みんな僕がトールキン作品に特別詳しいと思ったみたいで・・・(笑)。仕事の依頼が殺到したなんてことはないよ!僕の仕事の中で、本当に変わったものと言えば・・・うぬぼれで言ってるわけじゃないけど、画家や写真家としての部分かな。最近は、たくさんの人が展覧会に来てくれたり、僕の本を買ってくれたりするんだ。急に、僕の作品が注目されるようになったよ。

Q: 指輪の力とハリウッドの力、ついつい比べたくなってしまうのですが・・・。

いいところに目をつけたね!(笑)ハリウッドでは、妬みが増幅されて、ものすごいバトルが巻き起こってるから・・・。個人的には、ハリウッドに魅力を感じないんだ。表現方法としての、映画そのものが好きなんだよ。ハリウッドでは運が大きく作用するってこともわかってるし。B級映画に出ている時でも、とにかく一生懸命仕事をするだけなんだ。うまくいけば、面白い作品になるかもしれないし、そうならないこともある。確かなものなんて、ないってことだね。僕が心がけているのは、仕事にベストを尽くすこと。そして、すべての経験から何かを得るってことなんだ。ナンバー・ワンになりたいわけじゃない。ただ、意味のある仕事を選んでいきたいと思っている。とにかく、アーティストは指輪から遠ざかっているべきだね(笑)。

Q: あなたは、ロスアンゼルスの海辺の、アーティストが多く集まっているベニスに住んでいるんですよね。画家や写真家であるだけでなく、詩人やミュージシャンでもある。こうしたアーティスト活動は、どのように始めたんですか?

いつ頃からだったかな。映画や舞台より前に、詩を書くことに興味を持ったんだ。絵を描くのは、ずっと好きだったよ。写真は、身近なものだったから、自然に撮り始めた。結果的には、すべてが自分を表現する方法になったんだ。自分のあり方や、ものの見方を拡げてくれる・・・。最近では、演じることと同じくらい重要になってきているよ。

Q: では、いつごろ、どういう理由で俳優になりたいと思ったのかは憶えていますか?

はっきりとは憶えてないなあ。子供の頃は、母と映画を観に行っていたんだ。20歳の頃、1年ほどロンドンの近くに住んでいたんだけど、その時には古い映画専門で上映している映画館に通っていたよ。そこで、バーグマンや小津、パゾリーニ、ドライエルの作品を観たんだ。神の啓示のようだった。ただ映画を観るっていうんじゃなくて、完全に映画の世界にのめり込んでたよ。それで、映画がどんなふうにして作られるかってことに、すごく興味が出てきたんだ。しばらくして、舞台のオーディションがあって、それがきっかけで、ニューヨークでレッスンを受けることになったんだよ。

Q: デンマーク、ロンドン、ニューヨーク・・・なんだかこんがらがってきちゃったんですけど・・・年代順に整理してみませんか?

(難しい顔をして)やってみようか・・・2歳から12年間は、色々な場所を転々としていた。僕の父はデンマーク人で、母はアメリカ人。彼らはよく仕事を変えたんだ。ベネズエラやアルゼンチンにも住んでいたよ。毎年、夏休みになると、親戚のいるデンマークに行ったな。僕が11歳の時、両親が離婚した。それで、僕と二人の弟は、母と一緒にカナダ国境に近いニューヨーク北部に引っ越したんだ。そこで、中学、高校に通った。で、18歳になって、僕はデンマークに行った。イギリスへ行く前の、ほんの数年だけどね。それで、イギリスの後ニューヨークに戻ったんだよ。

Q: 『刑事ジョン・ブック〜目撃者』が映画デビューですよね。その前にも、何かありましたか?

いいや。『刑事ジョン・ブック』が最初の映画だよ。僕の出演シーンが編集でカットされなかった最初の作品!(笑)本当は、『カイロの紫のバラ』がデビューになるはずだったんだけど。編集担当者はそうしたくなかったみたいだね(笑)。

Q: 『刑事ジョン・ブック』の時は、どんな思いを抱いていたんですか?

まず、映画への好奇心を満足させたかった。『刑事ジョン・ブック』への出演依頼は、セントラル・パークで上演するシェイクスピア劇への出演依頼と同時に来たんだ。それで、僕は『刑事ジョン・ブック』を選んだ。たった二日の撮影だったのに!これが最後のチャンスのような気がしたんだね。監督のピーター・ウィアーは、僕を見ると「アレクサンダー・ゴドノフが演じる役柄に弟がいて、どこに行くにもピッタリとついて回るっていうのは、面白いかもしれないな」って言い出した。で、僕は、二日じゃなくて、6週間滞在することになったんだよ!6月から7月にかけての、とても暑い時期でね。僕は、あまりやることがなかったから、そのへんで見つけた自転車で、ペンシルバニアを走り回ってたよ。友達もできたしね。トム・ソーヤみたいな生活だったなあ。まあ、でも、ギャラはもらえたし、好きな時に撮影クルーの仕事を見せてもらえたから。

Q: ハリソン・フォードもいたし?

その通り!彼はプロフェッショナルだったよ。まじめでね。見ていて勉強になった。それに、もうひとりすごい人がいた。監督のピーター・ウィアーなんだけど、彼は本当に、穏やかで有能な人だった。夜になって僕が散歩から戻ると、僕にラッシュ(訳注:撮影したままの、未編集のフィルム)を見せてくれたよ。『刑事ジョン・ブック』では、すごくのどかな経験をしたな。

Q: 『刑事ジョン・ブック』でデビューしてから、初主演作『インディアン・ランナー』までの間は、どうしていたんですか?

4〜5年は、厳しい時期を過ごしたよ。オーディションをいくつ受けても、全然成功しなくて。その頃、ニューヨークを離れてロスアンゼルスに行ったんだ。いくつか舞台に出て・・・ちょっとずつ、小さい役がもらえるようになってきた。低予算映画とか、『ヤングガン』の続編とかね。ある日、どの映画を撮影している時だったか忘れちゃったけど、ホテルに戻るとメッセージが届いていたんだ。「ショーン・ペンから電話がありました」って、電話番号が書いてある。友達の誰かが、僕をからかってるんだと思ったよ。“ショーン”のスペルも違ってたしね。で、電話をかけた。「ショーン・ペンかい?」って聞くと、「ああ、そうだ」って不機嫌な声でショーン・ペンが答えた。「ヴィゴ・モーテンセンだけど、何か用?」・・・今考えると、ちょっと馴れ馴れしかったね(笑)。まあ、それで彼から『インディアン・ランナー』の話を聞いたんだ。ショーンは『想い出のジュエル』っていうHBOで作ったTV映画で僕を見たらしい。最後の方に、ちょっとだけしか出ていないんだけどね。で、彼は僕に脚本を送り、役をくれた。僕は最初、デビッド・モースが演じた役がやりたかったんだ。僕の役は、ただの“悪いやつ”として描かれていたからね。でも、フランク・ロバーツという男が、ああいった行動をとる裏には、すごく複雑な理由があるはずだ、と考えてみたんだ。撮影は、ものすごく楽しかったよ・・・ショーンがとても入れ込んでいたから。デニス・ホッパーと友達になったのも、この撮影がきっかけなんだ。で、この作品の後、僕に仕事の依頼が来るようになった。

Q: その後、『カリートの道』でショーン・ペンと再会していますね。それまでも、連絡は取り合っていたんですか?

いいや。今だって、偶然どこかで会う程度のものだよ。それだけ。『カリートの道』では、一緒のシーンがあると期待していたんだけどね、監督のブライアン・デ・パルマは、必要ないと思ったみたいだ。残念だったよ。

Q: この頃から、次から次へと色々な役を演じていますよね。『G.I. ジェーン』でのサディスティックな教官から、『ある貴婦人の肖像』のロマンティックな役まで・・・

意識的に、変身願望を満たすような役を選んでいるんですか? 僕の作品を色々見てくれているんだね、うれしいなあ。意識的に選んでいるわけじゃないけど・・・そうだな・・・(フランス語で)まあ、楽しんで演じているよ(笑)。

Q: ハンサムな男っていうイメージを壊したいと思っているのではないですか?そういうイメージがつくのは怖いですか?

セックス・シンボルなんていう看板を掲げることには、全く興味がないんだ。どんな役でもやるって方が、僕の気質に合ってるんだよ。好奇心が強いからね、新しいものにトライするのが好きなんだ。

Q: たくさんの女優と共演していますよね。デミ・ムーア(『G.I. ジェーン』)、サンドラ・ブロック(『28Days』)、ニコール・キッドマン(『ある貴婦人の肖像』)、グウィネス・パルトロウ(『ダイヤルM』)、ダイアン・レイン(『オーバー・ザ・ムーン』)・・・誰と一番いい関係を作れました?

みんな素晴らしかったよ。ダイアン・レインは、あまり良く知られていないかもしれないけど、僕にとっては一番印象が強かったな。すごく才能があるのに、ここしばらくは過小評価されてたね。

Q: 『ある貴婦人の肖像』の監督、ジェーン・カンピオンとの仕事には、どんな想い出がありますか?特別なものだったのでは?

そうなんだ!彼女と仕事ができて幸せだったよ。リハーサルや撮影前の打ち合わせの仕方が好きだった。自分に出来る以上のことを要求されるんだけどね。あれだけ要求の多い監督も珍しいよ。でも、それは俳優にとっては嬉しいことでもあるんだ。ニコール・キッドマンも、この作品ではいい仕事をしたよ。もっと評価されてもいいと思うんだけど。彼女、とても一生懸命やってたよ・・・。

Q: 次回作は『Hidalgo』ですね。なぜ、この作品を?

信じないかもしれないけど、『ロード〜』の後、そんなに仕事の依頼は来なかったんだ。『Hidalgo』の依頼が来てラッキーだったよ。ジョー・ジョンソンが監督する作品で、1890年に実際に起こったことを基にしているんだ。Hidalgoは馬の名前。僕はカウボーイなんだ。西部でベストと言われるライダーで、オマー・シャリフに勧められて大きなレースに参加するためにアラビアへ向かうんだ。オマー・シャリフだよ!彼が出るっていうんで、僕はこの作品に出演することを決めたんだよ!

Q: もっと別の理由もあったんじゃないですか?

この作品のテーマが好きだったんだ。心の内面の旅や経験を描いているから。『Hidalgo』は勇気や尊厳、名誉やサバイバルを扱った作品だよ。アメリカ人がアラビアへ行って、「手本を見せてやる」なんて言うような話じゃない。この作品でのアメリカ人は、何かを教えるんじゃなくて、逆に異なる文化から学ぶんだ。今、この時期に、こういう作品が作られるっていうのはいいね。しかも、メジャーなスタジオの作品なんだから、驚くよ!

Q: 映画に出演し始めたころに持っていた好奇心は、満たされましたか?

思った以上にね。自分の仕事に無限の可能性を見いだしたよ。映画っていうのは、作っていても、観ていても、何か宗教的な感じがするんだ。セットでは、儀式のようなことが行われるしね。準備をして、照明を整えて、監督が指示をして・・・。役者の方は、リハーサルのためにセットに行くと、衣装がそろっていて、それをつけてメイクをしたら、誰かが書いたセリフを読むんだ。「アクション!」っていう声が響くと、集中して役にのめり込む。時には、現実を忘れてしまうほど。旅や夢や魔法や、説明のつかない不思議なものへ、これほど素敵に導いてくれるものは、他にないと思うよ。

絵について

「僕の描きかけのキャンバスには、日記や新聞から抜粋した文章や格言が書いてあるんだ。僕はこういった文字を、絵の一部として使っている。以前は、日記や新聞のコピーをとっておいたんだけど、最近は取らなくなったから、なくさないようにノートやキッチンの壁に貼っているんだよ。絵の中には、僕が過去に見たものや、経験が残されているんだ」

本について

「一冊の本に、詩と絵と写真を組み合わせて掲載できるっていうのは、本当に嬉しいことで、すごく豊かな気持ちになれるんだ…」

彼の絵が、色やイメージへの探求を具体的な形にして表現したものだとしたら、写真は、その目撃者である。生活の中の瞬間をとらえたもの、風景から切り取った一部分、孤独な肖像、ぼんやりと抽象的に見えるプール・・・。彼の作品は、『Sign Language』の他、パーシバル・プレスから『Hole in the Sun』、『Coincidence of Memory』が出版されている。また、デニス・ホッパーが序文を寄せている『Recent Forgeries』には、モーテンセンが自作の詩を読んでいるCDが添付されている。

スタジオについて

「キッチンが僕の仕事場なんだよ。ちゃんとしたスタジオは持っていないんだ。でも、キッチンで作業をするっていうのは、なかなかいいもんだよ。キャンバスが乾くまで、何かちょっとつまみながら休憩できるからね。料理するの、好きなんだ。特に息子のために作る料理がね。まあ、伝統的な料理とは言い難いから、他の人が気に入るかどうかはわからないけど」

詩について

「作品の中には、映画に関係したものもあるんだ。『Coincidence of Memory』に入っている『Matinee』という作品は気に入ってるよ。ある午後に観た映画を思い出しているっていう短い詩なんだけど、映画って、一人で観ると何か特別な感じがしない?映画を観たり、本を読んだりして、すごくドキドキするってこと、あるよね。『Matinee』では、映画を観た後の、どこか別の世界にいるような気分を表現しているんだ。ほんのちょっとの間でも、もしかしたら、その後ずっとかもしれないけど、別人になったような気がするんだよね。それは、アート全般について言えることで、映画でも、舞台でも、絵でも、文学でも・・・何かいつもと違う気持ち・・・いい意味でユニークな気分になれる。あ、もちろん、この詩の中に出てくる映画は、架空の映画だよ!」

写真について

「写真、絵、詩・・・こういったものは、自分が目にしたもの、そして自分自身の延長に過ぎないんだ。単純なコミュニケーションの手段だね。ロバート・ルイス・スティーブンソン(訳注:イギリスの作家。『宝島』や『ジキル博士とハイド氏』で有名)がこんなことを言っているんだ。“希望を持って旅することは、目的地に着くことよりもいいことだ”。そのとおりだと思うよ。基本的に、僕はたくさんの望みを抱いている。絵を描いている時も、写真を撮っている時も、誰かの話を聞いている時でも、何か起こるんじゃないかって、わくわくしちゃうんだ。それが、“希望を持って旅すること”なんだよね」

レコードについて

「ミュージシャンが本職じゃないけど、音を出してみて、それを消して、また録音して・・・みたいなことはやってる。3枚出したCDの中に『The Other Parade』っていうのがあるんだけど、これはお勧めだよ。僕がやっている不思議なことを、ちょっとでも理解したいと思うなら(笑)。このレコードでは、僕は歌っていないんだ。でも、その他の色んなことをちょっとずつやってる。色んなことをちょっとずつ・・・色んなことをちょっとずつやっている奴らと一緒にね!コンサートをやろうとは思わないけど、時々、自作の詩を読むポエトリー・リーディングで、突発的に観客の前で演奏したりはするんだ。詩を読む合間に」

想像力の源

「好きな作家とか、詩人、画家、映画監督を挙げることはできないよ。もし今答えても、明日になったら言ったことを後悔するかもしれないからね。この人が好きだ、あの人が好きだなんて、言いたくないんだ。あるアーティストの、この作品が好きだっていう風には言えるけど、その人の作品全部が好きだとは限らない。それに、その時代の状況や、自分の精神状態によって、変わってくるしね・・・。そうだな、この仕事を始めた頃に、何かしら影響を受けた文章や、作品、人物や俳優、映画を挙げることはできるかな。僕を育ててくれたものとしてね」

アイコン

「『Hole in the Sun』という作品集で、アシジの聖フランシスコに感謝を捧げたのは、個人的な理由からだよ。作品集に入れた言葉や名前、引用について、説明しようとは思わない。僕がそれらを入れた理由が、たとえ読者にわからなくても。つながりを探ったり、何故だろうと考えたりすることを、やめろとは言えないけどね。読者がそれぞれ、色んな解釈をしていいと思うから。何かを理解しようと努力すれば、それだけ人生は豊かになる。答えを見つけることより、疑問を投げ掛けることのほうが大切なんだ」

映画

「ビスコンティの『ベニスに死す』を見た時には、ショックを受けたよ。すごく影響を受けた映画のひとつだね。最近、また見直してみたんだ。回想シーンなんかは、ちょっと時代遅れな感じはするけど、それでもやっぱり・・・美しさと寂しさが混在していて・・・なによりすごいのは、ダーク・ボガードだよ。彼の演技には驚かされる!あのインパクトは、本当にすごい」

痕跡

「映画に、個人的なものを取り入れるのが好きなんだ。『ダイヤルM』で、自分の絵を前にして演技したことは、作品に刺激を与えたと思う。同じように、『G.I. ジェーン』では、冒頭のシーンでD.H. ロレンスの詩を使うことを、監督のリドリー・スコットに提案したんだよ。僕が演じた軍人のキャラクターの、別の一面を見せるためにね。もっと個性的な感じにしたかったんだ。“女嫌いの男!”っていう面を、強調しすぎないように。冒頭で読んだ詩が収録されている本を、デミ・ムーアに渡すシーンがあるんだけど、あの場面で使っているのは、僕が個人的に持っていたものなんだ。古くて、ボロボロになってたんだけど・・・。映画のエンディングで流れるAuntie Christの曲を、リドリー・スコットに聞かせたのも僕なんだ(Auntie Christは、ヴィゴの元妻イクシーン・セルヴェンカが率いるバンド。ヴィゴとイクシーンは、『TVサルベーション!』という小さな作品で出会った。その後、イクシーンはOriginal Sinnersというバンドを新たに結成している)。彼らの『Life Could Be a Dream』っていうアルバムは、パンクロックの傑作だよ。最近の若いバンドの多くが、Auntie Christの活動に影響を受けているんだ。とにかく、僕は映画に自分の足跡を残すのが本当に好きなんだ。ただ演技をするっていうだけじゃなくてね」

親友

「デニス・ホッパーとは、『インディアン・ランナー』の撮影で知り合ったんだ。すぐに親しくなったよ。彼は、素晴らしいユーモアのセンスを持っている。人間として、彼のことが大好きなんだ。写真や絵に、共通の興味を持っているしね。お互いの作品を見せ合って、それについて話したりするんだ。彼は僕を、すごく勇気づけてくれるんだよ。個展を開くことを勧めてくれたのも彼なんだ。彼がギャラリーに紹介してくれたから、写真や絵をみんなに見せることができた。俳優としての伝説的なキャリアと同じように、彼は写真家としての自分も大事にしているんだ。尊敬に値するよ。僕個人としては、俳優としてのデニス・ホッパーよりも、写真家としての彼に興味がある。すごくいい視点を持っているんだ・・・。とにかく、僕をアートの世界に導いてくれたのは、彼。俳優になるっていうことは、自分だけで決められるけど、アートについては、そうはいかない。確固たるスタート地点があるわけじゃないからね。自分の中だけに収めていたら、何にも始まらないんだ」

監督

「20歳の時に、バーグマンやパゾリーニ、小津やドライエルを知ったんだ。まさしく啓示だったよ。これが映画ってものなんだ!って、驚きのあまり口をあんぐり開けちゃった。彼らからは、本当に刺激を受けたよ。小津作品の淡々とした感じや、人間の痛みをとてもよく捉えているカール・ドレイエルの作品は大好き。バーグマンやパゾリーニの純粋さもいい。彼らの作品を見たからこそ、表現方法としての映画に興味を持ったんだ」

女優

「20歳の頃、周りのみんなが話題にしていたのが『クレイマー・クレイマー』だったんだけど、この作品は、僕にとっての引き金になった。特に、メリル・ストリープ。まさにインスピレーション!って感じだった。他の出演者たちも、文句なしに素晴らしかったけど、この作品のメリル・ストリープには、何か共感できるものがあったんだ。何故だかわからない。ミステリアスでね、はっきり言葉にして説明できないんだけど、ずっと深く心を捉えて離さないんだ・・・。彼女以外だと、そうだな、たくさんの女優さんに影響を受けているから、挙げるのは難しいんだけど、イングリッド・バーグマンとリブ・ウルマン。『秋のソナタ』は忘れられないな。両親に対して抱く、激しい感情とフラストレーションを描いていて・・・そういう感情って、特に意識していなくても、誰でも持っていると思うんだよ。世界一の両親だったとしてもね!自分がこんな感情を持っていたんだって、改めて自覚させられるよ。でも、イングリッド・バーグマンとリブ・ウルマンの演技がなかったら、ここまでこのテーマに心を打たれなかったかもしれないね。二人の演技は、完璧に近いよ。セリフのひとつひとつが、心に染みてくる。模範的に、真面目に生きてきた彼らが、パッと燃え上がる炎にさらされて、輝くんだ。演技といえば、『ジャンヌダルク』のマリア・ファルコネッティには参ったよ。すごくドキドキした。この映画を初めて観た時、身体中の細胞が反応するのを感じたんだ。演技がものすごく印象に残るってことは、言ってみれば、偉大なアートを観たってことなんだよね。最も身近で、シンプルなアートだよ。ニューヨークで演技のレッスンを受け始めた頃、お手本にしていたのはこういった演技なんだ。まだまだ、その域に達していないっていうのは、当然のことだよ!」

translated by chica