The Japan Times  2003.2.20 原文
旅の仲間対帝国

The Japan Times の写真 (キャプション)
実物のヒーローたち:カール・アーバンとヴィゴ・モーテンセン、帝国ホテルで語る。

役者が政治を語る時、なぜ耳を傾けるべきなのか。それは、近頃の政治家よりも彼らの方が、時として、空想と現実の区別をわきまえているからかもしれない。

たとえば、『二つの塔』のヴィゴ・モーテンセンとカール・アーバン。映画では、気高い戦士アラゴルンとエオメルとして、ウルクハイの首をはね、魔法にかかり妥協を求める王セーオデンに戦(いくさ)を勧める役である。しかし、このアクション・ヒーローたちは、現実の出来事が、「善対悪」という形で安易に語られることには否定的である。その証拠に、最近の記者会見で、モーテンセンは「No more blood for oil (石油のために血はいらない)」と書いたTシャツ、アーバンは上着にピース・マークをつけて現れた。

このファッションの意味について尋ねられると(質問したのは『週刊金曜日』の記者というのもうなずける)、モーテンセンは、穏やかながら固い決意を秘めた口調で自らの考えを述べた。

「映画の仕事に関してこれまでやってきたことと関係はないよ。『ロード・オブ・ザ・リング』の第一部、そして、今回特に第二部についていろいろと比較されていることへの自分なりの反応なんだ。今世界で起こっている事と映画を比べて考えちゃ絶対にいけない。それはトールキンの意図でもある。これは寓意物語ではない、とはっきり述べているからね。それなのに、ヘルム渓谷で様々な種族を守る者と1万人の強力な軍隊との戦いが、アメリカ対世界(信じられないというように笑って)、アメリカ対いわゆる「悪人」という図式にあてはめて考えられている。そういう比較の仕方は間違っているよ。」

確かにその通りである。たとえば、次のような台詞がある。「新しい秩序の始まりだ。...我々に逆らう者は排除せねばならない」。ブッシュJr.にぴったりの台詞だが、実は、ローハンの自由の民を包囲する邪悪な魔法使いサルマンの言葉なのである。

モーテンセンは、個人的見解と断った上で、アメリカ政府の好戦姿勢に強く反対している。「イラクやアフガニスタンでは、すでに大勢の人が亡くなっている。罪もない人々が、不当な理由でね。誰が何を言っても、戦争が始まってしまえば、対話もなく、ずるずると進んで行くだけなんだ。アメリカは本来自由で対話を重んじる国だったはず。今こそその精神が必要なのに。議論も尽くさずこのまま行くのは危険だし、倫理的に間違っていると思う。」

石油のための戦争には反対を貫くモーテンセンだが、撮影では多くの戦闘シーンをこなしている。中でも、14週間にわたるヘルム渓谷の戦いは相当厳しいもので、激しいアクションで歯を数本折ったほどである。「俳優もスタントも、この戦闘シーンに関わった者は皆、一度や二度は怪我をしたよ。

「もちろん、そういうシーンには大がかりな特撮も使ったよ。でも、やってる僕たちにとっては、その仕事のほとんどが、何時間にも及ぶ非常にリアルなものだったんだ。そしてまた、リアルに見せるためには、グループとしてお互いをよく知らなければならない。どう動いたかとかね。ダンスの相手みたいに。

「それで、僕達もだんだん危険を冒すようになり、撮影が進むにつれて疲労も増していったよ。すべったり、転んだり。間違いも起こる。肉離れに骨折、いろいろな怪我。そんなのは当たり前だった。真に迫ったものをと思ったら、荒っぽくて激しいものになるのは当然だし、それぐらいの犠牲はつきものだと思う。」

カール・アーバンは、ベテランコーチのボブ・アンダースンから剣の特訓を受けた。エロール・フリンに剣を教えたのがアンダースンだったと言われても、30歳のアーバンにはピンとこなかったが、最初の『スターウォーズ』シリーズでダースベーダーのスタントだったと聞いた時には驚いたという。インディーズ系の映画『ミルクのお値段』でジャクソン監督の目にとまったアーバンは、きついペースにもかかわらず撮影を楽しんだようだ。

「今までの人生を合わせても、これほど自分の国について知る機会はなかったんじゃないかな。それもこの映画に出演できたおかげだよ。ヴィゴをはじめ、他の国の人たちに、今まで知りもしなかったニュージーランドの様々な面を教わったよ。」

モーテンセンも、撮影についてなつかしそうにこう述べた。「僕たちは撮影しながら、もう二度とこれに近い経験はできないかもしれないと思ったよ。それほど特別な経験だったんだ。」

translated by estel