MTV  2003.11.24 原文
ヴィゴ・モーテンセン、ニューアルバムでバケットヘッド、3人のホビットと共演

By Gil Kaufman

ニュージーランドで撮影された『ロード・オブ・ザ・リング』三部作。そこで培われた堅い絆が、ヴィゴ・モーテンセンのニューアルバム『Pandemoniumfromamerica』で証明された。彼がちょっと声をかけただけで、共演者たちが力を貸したのである。

実験的な歌と口語調の詩、そしてインストゥルメンタルで綴られたアルバムが、モーテンセン自身のメディア・カンパニー、パーシバル・プレスから12月5日にリリースされる。ハリウッド史上、屈指のシリーズ大作で魅力的な戦士を演じた彼しか知らない新しいファンにとって、このアルバムは意外な驚きとなるだろう。

「バケットヘッドと僕は、ほとんどレコーディングを終えていて、もう一日だけ何かやってみようと考えていたんだ」と、モーテンセンは言う。バケットヘッドはガンズ・アンド・ローゼズの謎のギタリストで、モーテンセンが過去にリリースした5枚のアルバムに参加している。いつもはケンタッキー・フライド・チキンの紙バケツを帽子にしてかぶっている彼が、今回は、魔女の仮面にかぶり物を変えてレコーディングを行った。「ビリー・ボイドとドミニク・モナハン、そしてイライジャ・ウッドが近所に来ていて、面白そうだからってスタジオに寄ったんだ。彼らはバケットヘッドの音楽を聴いていたし、バケットヘッドも彼らに会いたがった。『ロード・オブ・ザ・リング』で彼らのファンになっていたからね。そんなわけで、スタジオは“褒めあい大会”みたいになってたよ。少しの間、即興演奏を楽しんだんだ」

お楽しみの結果は、収録された曲で聴くことができる。『Gone』ではウッドがバック・コーラスを、『Shadow』ではウッドがパーカッション、ボイドがベース、モナハンがリード・ボーカルを担当している。モナハンとウッドは『Half Fling』でもボーカルを担当し、この曲ではボイドがドラムを叩いている。モーテンセンのティーンエイジャーの息子、ヘンリーも、タイトル・トラック『Pandemoniumfromamerica』でベース、キーボード、ドラムを披露。モーテンセンがキーボードを担当した『I Want Mami』、そして『wheelchair』では、父親と共に歌声を聴かせている。このアルバムは、『ロード・オブ・ザ・リング』三部作の最終章となる『王の帰還』公開(12月17日)の2週間前にリリースされる予定だ。

モーテンセンによれば、レコーディング・セッションは、撮影現場での“気のおけない仲間たち”という空気そのままだったらしい。「ドムがたくさん歌ってくれてね、それが自然と、僕らが作ったものを完成させるための、いい素材になったんだ」と、彼は言う。「少しだけ、僕が歌わなくちゃいけない部分はあったけど、それ以外にたいしたことはしなかった。楽器をとっかえひっかえして、ちょっと彼らの演奏に加わってみたり。破壊的な演奏からは、珠玉の作品も生まれたよ。『Half Fling』という曲では、ドムとイライジャが即興でしゃべったデタラメな言葉が素晴らしい作品になったんだ」

『ロード・オブ・ザ・リング』の共演者たちとのレコーディングは、今年の夏、4時間のセッションという形で行われた。

モーテンセンは5枚のアルバムの他に、ここ数年でパーシバルから、詩、絵画、写真の作品集を半ダース以上発表している。5枚の実験的なアルバムには、バケットヘッドの他、モーテンセンの元妻であるパンクバンド“X”のイクシーン・セルヴェンカ、そして同じく“X”のドラマーであるD.J.ボーンブレイクが参加している。その内の1枚が『One Man’s Meat』。このアルバムを彼は、「肉好きとベジタリアン双方が表現し、パフォーマンスする、すべての消費者のための、肉とその副産物に関する研究」と言い表した。

彼の表現方法から考えると、今回の新しい音楽プロジェクトは、世界中のクレイ・エイキンたち(訳注:クレイ・エイキンは、アメリカのスター発掘番組『アメリカン・アイドル』から生まれたミュージシャン)を脅かすようなものではないだろう。「このアルバムで表現しているのは、歴史への言及、ウィリアム・ブレイクやジョナサン・スウィフトの予言的な詩の断片、19世紀にドイツと戦ったデンマークの戦士の歌、思考のねじれ、メロディ、ものの見方、車椅子、雨水、幸せで寂しいおしゃべり、ため息、始まり、終わり、その真ん中、赤ちゃん、議論、道、多くの脱線、そして安全な場所なんてないってことなんだ」と、彼は言った。

長年、モーテンセンのプロデューサーを務めているトラヴィス・ディッカーソンによれば、このニューアルバムは、数千枚の限定販売を予定しているということだ。「ヴィゴは絵描きであり、写真家だからね。どうしても抽象的だったり、表現主義的になったりするんだ」と、ディッカーソンは言う。「でも、今回のアルバムは、とてもわかりやすくて、音楽的になっている。まあ、同時に挑戦的でもあるんだけど」。モーテンセンは、今回のアルバムを引っさげてのツアーには出ないのだと言う。しかし、その代わり、“山と積まれた目立つTシャツ”を目にする機会はあるかもしれない。

translated by chica