Rolling Stone  2003.10.2
ホットな俳優 ヴィゴ・モーテンセン

史上最大の話題作のスター、そして、時代を超えたヒーロー

ヴィゴ・モーテンセンは、なぜこれほどまでLotR三部作のアラゴルン役がぴったりなのか。それは、彼がトールキンの原作に完全にとけ込んでいるからかもしれない — 原作には直接書かれていなくても、彼はアラゴルンが弓を持ち歩く理由をちゃんと説明できる。あるいは、この役に全身全霊を捧げているからかもしれない — 撮影中、どこへ行くにも、レストランでも、剣を離さなかった。あるいは、彼の幅広い知性のせいかもしれない — 間際の役の交代で参加が決定し、(NZに向かう飛行機の中で)初めて『指輪物語』を読んだとき、ベオウルフと中世アイスランドのサーガに似ていることに気づき、到着するなり、トールキン自身が参考にした本をたくさん買い込んだのである。「神話と文学の勉強の場になったよ」と彼は言う。彼はアラゴルンを、たぐいまれな映画のヒーロー、世紀を超えた真の神話の要素を持ったヒーローに作り上げたのである。

ヴィゴ(「ヴィー・ゴゥ」と発音)・モーテンセン(44)の豊富な経歴には、誰もが恐れ入る。これまで、約40本の映画に出演。『目撃者』でデビューし、特に、『インディアンランナー』では傷ついたベトナム帰還兵を、『オーバーザムーン』ではヒッピーのブラウス屋を好演した。また、絵画や写真を手がけ(最近の作品は『45301』という本に収録されている)、三カ国語で詩を綴り、パーシヴァル・プレスという小規模な出版社を経営する。

父はデンマーク人、母はアメリカ人で、子供時代はアルゼンチンに長く暮らした。独りでいるのが好きな子供で、それは大人になった今も変わらない。彼の元の妻は、伝説的パンクバンドXのイクシーン・セルヴェンカである。また、アラゴルン役を引き受けるよう説得したのは、現在15歳になる息子のヘンリーであった。トールキンの原作では、ホビットのフロドが中心人物だが、PJの映画では、モーテンセンの持つ王のカリスマ性に注目が集まっており、オスカーの話題の的となっている。

インタビューの最中、彼は、カリフォルニア州ベニスの自宅のキッチンで、緑色の濃いアルゼンチンのマテ茶を煎じて飲み、食事(韓国餃子)を作っている。話題は、画家ゲルハルト・リヒター(独、1932生まれ)の経歴に始まり、デンマーク語の歴史、現代の映画市場(「みんなを口説いて、すぐ忘れてしまうような映画を見るようにし向ける商売なんだよ」)へと続く。この後彼は、LotR: RotKの最後の追加撮影のためロンドンに向かう。彼は、この中つ国を描いた三部作に満足してはいるが、それを早く終えて、アートと自分の出版社にもっと時間を費やしたいと明らかに願っている。

彼のもう一本の作品『ヒダルゴ』は撮影が完了し、来年三月に公開予定である。彼が演じているのは、19世紀に実在したカウボーイ、フランク・T・ホプキンズで、アラビアの砂漠を舞台に馬で3000マイルを駆け抜ける、オーシャン・オブ・ファイアーというレースに参加した最初のアメリカ人である。モーテンセンが特にこの映画に熱を入れたのは、アメリカ人が外国に行って世界の問題を解決するという、よくある好戦的愛国主義者を描いた映画ではないと思ったからだ。砂漠での撮影が終り、スタッフが後かたづけをして車で二時間かけてホテルに戻っても、彼は一人残り、砂丘で夜を明かしたこともよくあった。本と物思いにふける時間と夜空の星があれば幸せとは、ハリウッドにはまれな俳優である。

translated by estel