TV & Satellite Week  2003.8 原文
指輪の王

長い間脇役だったヴィゴ・モーテンセンは、トールキンの三部作のアラゴルン役のおかげで今や大活躍である。

信じられないことだが、JRRトールキン原作、ピーター・ジャクソン監督のファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・リング』三部作で、気高きアラゴルン役に最初に選ばれたのはヴィゴ・モーテンセンではなかった。ニュージーランドではすでに製作が始まっていたが、ジャクソン監督は、アラゴルン役に決まっていたスチュアート・タウンゼントの代わりを探すことに決めた。

これは、モーテンセンにとって、15年以上も脇役をやった末に主役を務めるチャンスであった。デンマーク系アメリカ人でニューヨーク育ちの彼は、1985年、『刑事ジョン・ブック〜目撃者』でアーミッシュの農夫の役でデビュー。『ある貴婦人の肖像』(1996)ではニコール・キッドマンの求婚者の一人、『G.I.ジェーン』(1997)ではデミ・ムーアの教官、『ダイヤルM』(1998)ではグゥイネス・パルトロゥの危険な愛人で芸術家の役を演じている。

モーテンセンには、元妻でパンク歌手のイクシーン・セルヴェンカとの間に、15歳になる息子ヘンリーがいる。ロサンゼルスを中心に活躍するモーテンセンだが、撮影で長期間息子の元を離れなければならないため、生涯最高の役を引き受けるのを当初はためらった。

Q: (アラゴルン役のオファーの)電話があった時、三年も拘束されるということで、いろいろ考えましたか?

もちろんだよ。僕はロスの自宅にいて、こう言ったんだ。「すばらしいチャンスだとは思いますが、僕は原作を読んだこともないんです。ニュージーランドでもう何ヶ月もリハーサルや乗馬、剣術の稽古をしている出演者もいるのに。」自分は不利だと思ったし、みんなの足を引っ張りたくもなかったからね。それに、当時11歳の息子もいたし。引き受ければ、今までで一番長く息子と離れて暮らすことになるからね。

Q: 息子さんの意見は?

「ねぇ、すばらしい本だから引き受けた方がいいよ」って。賛成してくれてうれしかったけれど、決断するのは僕自身だったからね。結局、もしここでやらなければ、やりがいのある仕事に背を向けたことがずっと心の奥から消えないだろうと思い、次の日ニュージーランドに発ったんだ。

Q: どうして急にそんなことになったのでしょう?

スチュアート・タウンゼントがやることになっていたんだけど、彼は僕よりずっと若いんだ。ホビットたちと同じぐらいの年なんだよ。だから、彼らの方でも決めていたんじゃないかな。「いつも君が年上に見えるように、経験豊かに見えるようなつもりでやるからね」って。

Q: どんな準備をしたのですか?

飛行機の中で原作を読み始めたんだ。カメラに向かう前にできるだけ消化しておこうと思って。「一体何だこりゃ?」という感じだったね。でも、そのうちに、全くわからないわけでもないと思い始めたんだ。アラゴルンは、北欧神話の英雄たちをひとまとめにしたような人物だけど、現代風の人物でもあるんだ。自分の定めを果たす日が来たとき、自分にそれだけの資格があるのだろうかと思ったりする。アラゴルンも不安なんだということがわかって安心したよ。「よしよし、僕たちには少なくともどこか共通点はあるわけだ」ってね。

Q: 剣術はどうでしたか?

現場に着いて、本来なら何週間も稽古が必要なところを、二、三日でやったんだ。ボブ・アンダーソンという先生に就いてね。厳しかったけれど、とてもいい先生だったよ。70歳は過ぎていたんじゃないかな。四、五十年前はフェンシングのオリンピック代表だったんだ。

Q: 怪我はしましたか?

うん。でも、あれだけの撮影のペースと、夜中雨の中での戦闘シーンの数々を考えたら、死者が出なかったのは驚きだね。

Q: この仕事の一番いいところは何だと思いますか、また、悪いところは?

僕にとっては、プロセスが一番だね。いろいろな場所に行き、人と出会い、自分が演じる人物を完全に理解できるということ。一番がっかりなのは、結果が他人の手に委ねられているということかな。どんなに良くできても、完全には僕の作品じゃないからね。でも、映画ってそういうものだから仕方がないね。

translated by estel