Valinor  2003.11.7 原文 Part 1 | Part 2 | 英訳
ヴィゴ・モーテンセンとのインタビュー

By Imarahil

私と他の2人のレポーターが、今日13時50分ちょうどに、ヴィゴ "アラゴルン" モーテンセンと会ったのは、日当たりも良くほとんど何もない部屋でした。あるのはクラッカーの乗った小さなテーブルだけ。通訳(私たちには必要ありませんでした)が片側にいて、ヴィゴは立って私たちを迎えてくれました。背はあまり高くなく、175か178センチ、髪は短いブロンド。とてもリラックスしてフレンドリーでした。彼の前にはマテ壷がありました。[ガウチョ(ブラジル南部の州リオグランデ・ド・スールの人々)が甘味を加えないマテ茶を飲むときに使う入れ物。この「着こなしセンスイマイチさん」が持って写ってる写真もあるし、インタビューにも何度も登場するあの丸い壷。きっとこの人、やみつきに違いない。実は私もなんです] これは彼がアルゼンチンに住んでいた時におぼえた習慣です。その後すぐカイピリーニャが運ばれてきました。[ワ〜〜〜〜〜〜〜ィ!これはブラジルで最高においしい飲み物。ライムを絞って砂糖、氷、"カシャーサ"(サトウキビから作られたブランデー)をほどほど加えて、ハイ出来上がり。神々のお酒。ヴァラールもとりこになるかも。]

握手をした後、ヴィゴは私たちの勤め先のことを尋ねました。インタビューの時はだいたいそうですが、この日も彼は、立派なスーツにもかかわらず裸足でノーネクタイでした。びっくりしたのは、どの質問に対しても、単純で素っ気ない答えは一つもなかったことです。慎重に、細かい点にまで触れ、とりとめのない話になることもありましたが、話がそれた時には謝りながら答えてくれました。ここに挙げる5つの質問には十分な答えとなるものでした。イシルドゥアの末裔を演じるために、この俳優がトールキンの作品に深くのめり込んだというのも当然と言えば当然かもしれません。さあ、それでは質問にいきましょう。

Q: 今おそらくあなたは映画界で最も有名なヒーローですが、これまでは悪役で知られていました。ルシファーの役さえやっていますよね。ヒーローと悪役では、やっていてどちらが楽しいですか。

それは自分がその役とどう接するかによるね。台本でアラゴルンの部分を読んで、「あ〜、こりゃ退屈かも」と言うかもしれない。確かにチャンバラの場面はたくさんある。でも、退屈なのは彼が根っからの善人だからなんだ。僕にはこの役の方が、ずっとおもしろいし難しくもある。こういう言葉の陰に、生身の人間が見えるから。疑い、時には恐れ、多くの問題に心を悩ませ、あらゆる登場人物と最も関わり、さらには、様々な文化と関わっている人物だからね。

アラゴルンは、恐らく、ミドル・アースで最も偉大な旅人だろう。原作では、ガンダルフが、「アラゴルン、この時代この世で最も偉大な旅人にして狩人」と言ってる。つまりこれは、アラゴルンが何に興味があり、どんなことに関わりがあるかということだから、表面的に見れば簡単だよね。だけど、役者としてこれを演じるには、世の中のことをよく知り、いいことも悪いことも、人々について知れば知るほど役に立つこともあるんだ。ただ、結局最後は、自分を切り離して見るよりも、(演じる役との)共通点を見つけ、違う点は忘れることが一番だと思うようになるんだけどね。

それから、歴史をもっとよく知り、どんな歴史でも、ミドル・アースでも僕達のこの世界でも、人々のいろいろな行動を知ること。そして、誰でもどんな人でも、とんでもなく誤った選択をすることがあることを知ること。たとえば、金の塊にすぎない「指輪」が途中で道を見失った者の手を離れる。つまりサウロンだよね。彼は以前はガンダルフほどの力はなかったかもしれない。でも、サウロンは、僕達が誤った選択をする可能性を象徴しているんだ。人々を支配しようとするとか、いろいろ、多分みなさんにもお分かりのような事をね。

このことを理解するために、「指輪」が象徴する実際の悪を見て認識すること、これがアラゴルンを理解する一つの方法なんだ。アラゴルンも同じようにして、人間のしたこと、歴史を通じて人間が犯した過ちを知るんだ。どんなに偉大な人間、高貴な人間でもね。そして、「彼こそは真の王位継承者アラゴルン」とか「イシルドゥアの末裔、アラゴルン」とか、彼の偉大な先祖たちのことを人々が口にするたびに、アラゴルンは人間の過ちを思い出す。彼らは権力の誘惑、つまり、人々を支配しようとする誘惑に負けた者達なんだ。確かに彼はすばらしい人間だよ。だけど、いろいろなことがあって、彼は大変な重荷を背負うことになり、自分も過ちを犯すかもしれないと悟るんだ。

第一部、特にエクステンデッド・エディションには、そんな場面が出てくる。ショーン・ビーン演じるボロミアとの議論の場面。きっと、彼は、もう一度話し合わなくちゃと思ってるんだよ。初めは消極的だったからね。ホビットたちにはがみがみ言うし。言ってることわかる?彼は決してパーフェクトな人間じゃないということ。疑い、時には恐れ、時には怒りを口する。アラゴルンは普通の人間なんだ。

そう、どの役もこんな感じ。つまり、この物語のすばらしいところは、ヒーローは一人じゃない、全員がヒーローだということ。みんな人間味があるということなんだ。尖った耳をしていても、背の高さがこのぐらい(手でホビットの背丈を示し)でも、翼があろうが、5千年生きていようが。ガラドリエルだって、水鏡のシーンでは、フロドに対してそういう場面があったよね。でも、そのおかげでこの物語が一層身近なものになるし、それがまたこの映画が成功した理由の一つでもある。一度この映画を観た人は、もう一回観て、そのとりこになる。この物語やトールキンに取り憑かれた人だっている。[誰?私?ち〜がいますよ。] 気づいていてもいなくても、みんなそれに深く結びついているんだ。こうなったらもう単なる映画じゃないよね。

Q: 作家であり詩人として、文学作品としての「ロード・オブ・ザ・リング」についてはどう思いますか?

ええと、最初に、自分がどんなことに足を突っ込んだろうと思って、(ページをめくるまねをして)急いで読んだよ(笑)。次に、接点を探していったんだ。今まで本で読んだことや知ってることとね。特に、北欧のサガや神話からは、トールキンも随分ヒントを得たんだよ。それから、他にもたくさんのこと、本や歴史上の出来事、今起こっていることなど・・・。あぁ〜、もう一度質問をお願いできる?ちょっと話がそれてしまって。

Q: この原作を文学作品として評価するなら・・・。

ああ、そうだったね。えーっと、今言ったようなことで、つながりを考えていったんだ。その時こう思ったね。「この本は膨大だから、20%、25%、いやもしかして30%は簡単にカットできるだろう」ってね。いい?「簡単に」だよ。だって、あるパートを読んで、「しまった、これ写さなきゃ」って言って書いたのはいいけど、この名前と出来事のリストと言ったら・・・(笑)。そして、35ページを過ぎた所でこう言ったんだ。「なんてこった!もうこの話は出てこないのか。じゃ、ストーリーとは関係ないんだな。だったら、僕ともこの役とも関係ないじゃないか。こんなことってあるかい!」(笑)

だけど、本当はその時こうだったんだよ。つまり、彼(トールキン)がわけもなくそれらを挿入したとしても、実際には何らかの関連性があるということが、最後にわかったんだ。今でも僕は、トールキンは書き過ぎだと思ってる。でも、そこに出てくる様々な要素や話のポイント、面白い接点は、ストーリーの構成要素になりうるものなんだ。この部分を取ってしまったら、何か足りないと思うようなもの。映画で言えば、1シーンをカットしただけのように見えて、実は他の大勢の登場人物に影響を与えるようなものなんだ。

(ここで、ウェイターがカイピリーニャをもう一杯運んでくる。)[この「すきっ歯さん」は「ちがいのわかる」人だと常々思ってました。] これもブラジルを知るための勉強。(笑)(ウェイターに"Muito obrigado"[どうもありがとう]と言い、記者の一人にそれを差し出す。)それにしても、これは効くねぇ。(笑)初めて飲んだよ。飲んでみる?おいしいかどうか教えて。(その記者が飲み、パーフェクトと言う。)

ええっと、それで、本としては書き過ぎだという気がした。校正もかなり必要だったと。(カイピリーニャを一口飲んで言う。「おいしい、誰か飲む?」)アラゴルン、カイピリーニャのとりこ。(笑)元気のもと。(笑)「カイピリーニャ・パワー。」Tシャツの文句が浮かんだよ。(笑)[イェ〜〜〜〜〜イ、私にもわかる。]「ワン・ドリンク(リング)。」(笑)

で、トールキンは書き過ぎだと思ったけど、この本はすぐれたものを持ってるとも思った。様々な文体や歌や詩がいたるところにあるんだ。雑多な感じがするけれど、この本を詳しく調べ、読み返すうちに、ますます彼は頭のいい人だと思うようになった。彼は様々な結びつきを考えているんだ。今の僕達を印象づけようなんて思ってもいないし、全然気にかけてもいない。彼は今こう言っているんだよ。「この歌がこう書かれているのは、古いフィンランドのこの詩と関係があるから、あるいは、ウェールズのこの話、アイスランドのこのサガ、このスタイル、この歴史と関係があるから。」

これはすばらしいことだと思う。巨大なジグソーパズルだよ。50万個目のピースを手に取って、「何てこった。これがグレーのピースの集まりで、グリーンはこれか。よしわかった。グレーの部分はここで、グリーンの部分はそこ」と言って置いてみる。すると、手に持ったそのグレーのピースが、ここにしか入らないと気づくんだ。確かに大変な作業だよ。だけど、同じようなピースを集めてみると、一個たりともはずせないということがわかるんだ。

Q: MTVムービー・アウォードの「ロード・オブ・ザ・ピアス」のスキットはどう思いましたか。

僕は出席しなかったよ。

Q: いいえ、出てましたよ。ジャック・ブラックがショーン・アスティン(サム)の物まねをしたりしてましたが。

あ〜、わかった。見たよ。とてもおもしろかった。何についてだっけ?あぁ、ゴラムか。ピーター・ジャクソンが、MTVについて本心を言ういい機会だったと思うよ。(笑) それも(彼が思っていることの)一つの表現なんだ。傑作だったね!どれも放送禁止の「ピー・ピー・ピー」だったじゃない。ピーターはとても喜んでいたよ。4年経った今でも、子供みたいに、「みんな、これ見なきゃ!」って言って、笑いながら、みんなにビデオを見せるんだよ。

Q: それから、「王の帰還」のゲームはどう思いますか?

ビデオゲームのこと?2回しかやったことないよ。でも、15歳の僕の息子はとてもうまいよ。もう大好きなんだ。でも、時間を使うよね。とめなければ、彼は一日中でもやってるよ。8時間も9時間も。どうかな、あの子にはおもしろいのかもしれないけれど、僕は他のことをしたい。もし、8時間で何か一つのことをしなければならないとしたら、窓の外を眺めていたいな。わからないけど、多分、好みの問題だろうけど。「マトリックス」みたいに、自分でドアを開けないだけで、本当は世界の中に自分の全く知らない世界があるのかも(笑)。

Q: 「二つの塔」では、アラゴルンの死と、アルウェンとの最後の日々について、短いながら美しいシーンがありますが、これは「王の帰還」にも出てくるのでしょうか。

うん。ネタバレはしたくないけど、原作の最後にある付録がとてもうまく使われているんだ。トールキン自身も言ってる。彼が誰かに宛てた手紙を読んでわかったんだけど、彼はアラゴルンとアルウェンの関係を、わざと深く追求しなかった。それに、二人の関係は彼にとっても大きな意味があったんだ。この二人は、彼が創り出したミドル・アースの歴史に登場するもう一組の人物、ベレンとルシエンとつながっているんだよ。僕はこれに気がついて、ある提案をしたら、映画に取り入れられたんだ。原作に出てくるルシエンのバラッド[ルシエンの歌]を入れたらどうかってね。

この場面、第一部のエクステンデッド・エディションに入れられたんだけど、見た?(全員イエスと答える。)最初の方に、初めてエルフ語が出てくる場面があるんだけど、プロローグを除けば、この場面が最初だと思うんだ。野宿で、ホビットたちは皆疲れて眠っている。アラゴルンが見張り番で、パイプをふかしながら火を守っている。

彼は何か口ずさんでいる。エルフ語で。ここで初めてエルフ語が出てくるんだ。しかも、人間の口から!それは歌で、とてもとても古い、どこかケルト風のメロディー。そして、この歌はとても興味深い働きしていると思うんだーごめん、また脱線しちゃったね。でも、まあ(笑)ーなぜ興味深いかというと、第一に、最初に出てくるエルフ語だから。第二に、フロドがこの歌を聴いて、エルフ語が理解できたという事実。だって「その歌の人はだれ?」って聞くだろ?

これは、主人公である「指輪の所持者」についてとても重要なことを物語っていると思う。まず、フロドはホビットにしては頭がいいこと。そして、かなりの好奇心の持ち主であること。ビルボが普通のホビットと違うのと同じように。ビルボは旅が好きで、シャイアーの外の世界に興味を持ってるよね。これが全てにつながっていく。だから、この歌を入れた方がいいと思ったんだ。

まだあるよ。アルウェンが登場する以前に、アラゴルンという男の気持ちがわかる場面でもある。「おい、みんな、いくぞ。ほら歩け。すぐに立ち止まっては、食ったり昼寝したりしてちゃだめだ。歩き続けなきゃ。」いつもこんな男というわけじゃない。こんなコチコチの面だけじゃなく、感情を持った人間だということがわかる。とてもインパクトのある場面なんだ。

これはポップソングみたいなものなんだ。どの時代にもそういう歌があって、2千年前のギリシャだろうが、今の時代だろうが関係ない。自分だけのポップソングをある時口ずさんでいる。マリアやアンジェロのことを歌った歌でも、クリスティナやミゲルのことを考えながら歌ってるんだ。つまり、自分の人生の何かと結びつけながら歌っているんだよ。

だから、アラゴルンは今言ったような結びつきを示している。そして、観客は、すぐには気づかなくても(トールキンおたく[はい、白状します]なら別だけど)、いつかは、アラゴルンとアルウェンの関係に似ていることに気づくと思う。—ここで話が途切れたんだよね?— そして、これはトールキンにとっても重要な意味がある。彼のお墓には「ベレンとルシエン」と刻まれているんだよ。だから、本当に重要なことなんだ。おかげで、本文だけじゃなく、付録の部分も参考にすることができた。これは第三部でも、(登場人物の)行く末に関して、とてもうまく使われているんだよ。

(ワーナーの広報担当者がやって来て、もう時間だと言う。)長くなってごめん。あと一つだけ質問する時間をあげてくれないかな。(最後の質問にOKが出たので、まだ一つしか質問していない同僚が質問する。)

Q: アラゴルン役でかなり有名になっても、(ショーン・ペンの監督第一作目のように)経験の浅い監督、独立系や違う畑の人たちとも仕事をしていくおつもりですか?たとえば、フィリップ・リドリーの二つの作品のような。

そのつもりだよ。あの映画観たの?

Q: ええ、もちろんですよ。とてもおもしろいし、心理的にも複雑な映画ですね。[もちろん観てますよ。彼はプロの批評家ですから。このカルト・ムービーもとても気にいったはず。]

そうなんだ。彼もファンタジーに興味を持っているんだよ。

Q: 彼の作品はこの二つだけですか?

短編もあるよ。10分ぐらいの、すばらしい作品。今度、1976年を舞台にした作品を監督するらしいよ。

Q: それには出演なさいますか?

いや、それには出ないけど、うまくいけば、一緒に他に何かやるつもりだよ。(ほんとにこれで終わり。常に紳士のViggoは、私達より先に立ち上がってあいさつをしてくれました。さらに、レポーターの一人と一緒の写真を撮らせてくれました。) ありがとう、みんな!

グレーのコメントは、ポルトガル語から英語に翻訳したPassoLargoさんの訳注です。

translated by estel