The UK Daily Mail  2004.1 TORn のスキャン
ロード・オブ・ザ・ライム 〜言葉の支配者〜

By Tanith Carey

独占!“指輪”のスター、ヴィゴはなぜ詩人であることを望むのか

片手に剣、片手に手綱。悩める戦士アラゴルン役によって、ヴィゴ・モーテンセンは地球上で最も “そそられる男” の一人となった。

『ロード・オブ・ザ・リング』三部作の完結編は、イギリスのボックス・オフィスでオープニング記録を打ち立てた。この作品では女性ファンを喜ばせるため、この“今が旬”の俳優が大フィーチャーされている。しかし、このように大きな注目を集めているにも関わらず、ヴィゴは王様にはなりたくないようだ。ミドルアースでも、ハリウッドでも、他のどこでも。

実際、この45歳の俳優は、成功についてまわるどんな種類の名声にも飛びついたりはしない。プレミアやパーティーに出席するよりも、3つの言語で詩を綴ることや、「Theology And The Religions : A Dialogue」を編集することに時間を割く(訳注:これは誤り。この本の編者は、同姓同名の別人です)

この型破りなスターは、いつでも裸足で歩き回り、携帯電話は買わず、女性ファンたちにファンレターを送らないように促した。その生活は秘密のベールに包まれており、見せてくれたとしても、ほんのさわりだけ。繰り返される恋愛関係についての質問は、“関係のないこと”として退けてしまう。

ではこの、多くの人々が“史上最高の映画”と呼ぶ作品でスターになった男は、いったいどんな人物なのだろう。『ロード〜』で共演したリブ・タイラーでさえ「彼は謎だわ」と認めた。

ロマンスという面から見れば、命に限りのある人間たちにも望みはある。ヴィゴは、グラマラスな女優の肩を抱いて現れるようなタイプではないからだ。彼が女性に求めるのは、単なる見た目の美しさではなく、芸術的な気高さなのだ。

彼が最も愛し、大きな影響を受けたのは、元妻イクシーン・セルヴェンカ。風変わりなスタイルで、ハリウッド的なものを潔しとしない女性パンク・シンガーである。47歳になる彼女は、ぽちゃっとしたスージー・スーといったルックス。クレオパトラ風に黒くアイライナーを入れるのを好み、古着屋で手に入れたポルカドット柄のドレスを着て、腕には数えきれないほどのブレスレットをはめている。

二人は『サルベーション!』という低予算映画の撮影で出会った。当時、彼は26歳。うだつのあがらない俳優だった。一方、彼女はアメリカのパンク・バンドXのリード・シンガーとして知られていた。詩人としても活躍していた彼女に、ヴィゴは畏怖の念を抱いていた。イクシーン(本名はクリスティーン)もまた、このアメリカ生まれのデンマーク人の熱心さに恋心を募らせていく。そして、書いた詩を冷蔵庫にしまうという彼の行動が、恋の決め手となった。

つむじ風のような恋。1年も経たないうちに、二人は結婚した。

「イクシーンはパンク界の大スター。それに比べてヴィゴは、どこからやって来たのかもわからない、売れない俳優だったんだ」と、二人と長い付きあいを続けている友人は語った。「彼はその頃から深味のある熱い男でね。詩も書いていたけれど、それを公表してはいなかった。彼女が彼の殻を破り、自作の詩を発表するように背中を押したんだ。二人は別れてしまったけれど、その後もずっと、彼は彼女に対して誠実に接しているよ」

結婚式の1年後、二人の間には息子のヘンリーが誕生した。即座に一家は都会の喧騒を離れ、アイダホの北にある304エーカーの森のコテージに居を移す。しかし、都会から離れたことで弊害が生まれた。ヴィゴがオーディションを受けにくくなってしまったのである。妻と幼い息子のために、彼は自分の主義を捨て、『G.I.ジェーン』や『悪魔のいけにえ3』などの商業作品に出演するようになった。

ヘンリーが3歳になる頃には、結婚生活は破綻。二人は別れることになる。しかし、それ以降も近しい関係は続き、正式に離婚の手続きを取ったのは、その7年後のことだった。ミラー紙によれば、離婚後も3人揃ってハロウィンを過ごしているようである。

ヴィゴの最も新しい恋人はローラ・シュナーベル。彼女もまた、ハリウッドのアイドルではない。ニューヨークを中心に活動するジュリアン・シュナーベル(おそらく、現存するアーティストとしては最も尊敬を集めている人物)の長女である。ローラはヴィゴの半分ほどの年齢だが、ふたりは “アーティスティックなレベル”で結びついていた。イクシーンの場合と同じように。

しかし、2年の付きあいの後、ふたりが別れた理由は、もっと現実的なものだった。ヴィゴのアウトドア好きや、誰にも告げずに何日も姿を消してしまうこと、そして“石鹸と水”嫌いにローラが愛想を尽かしたのだと報じられている。

これまで、ヴィゴと噂になった映画スターはグィネス・パルトロウだけである。彼女は『ダイヤルM』の共演者であり、アーティスト気質の男性に弱いことでも知られている。グィネスがベン・アフレックと別れたのは、ヴィゴが原因だとささやかれたが、彼は関係を否定した。

ヴィゴの不思議な持ち味や放浪好きには、幼少期の経験が影響しているのかもしれない。1958年10月ニューヨーク生まれ。彼の母親グレースと、父親のヴィゴ・ピーター・モーテンセンは、ノルウェーのオスロで出会った。ヴィゴが2歳の時、家族は南米に移り住む。アルゼンチンのブエノスアイレス、そしてベネズエラへ。また、毎年ヴィゴと二人の弟たちはデンマークで夏休みを過ごしており、こうした生活によってスペイン語とデンマーク語を流暢に話せるようになったのである。彼は今でも、少なくとも年に2回はデンマークを訪ねており、唯一、故郷と呼べる場所だと言っている。

ヴィゴが11歳になる頃、モーテンセン家は母親グレースの故郷に戻ることになる。ニューヨーク北部の小さな工業都市、ウォータータウンである。その頃からルックスの良さは見え隠れしていたものの、ウォータータウン高校時代のヴィゴは、イケメンというよりは、寡黙な男の子として記憶されている。

英語教師のジュディス・モーリーが記憶をたどる。「ヴィゴはホワイト・ブロンドで、天使のようなルックスだったわ。アメリカ出身の男の子とは、明らかに違う雰囲気を持っていたわね。成績はオールA。芸術的な才能にも恵まれていたけれど、演技に興味があるような様子はまるで見せなかったのよ」

この頃にはまだ、女性を魅了する雰囲気は醸し出されていなかったようだ。友人のジェフ・ヒンクリーは言う。「高校時代、彼にガールフレンドがいたっていう記憶はないなあ。落ち着いていて、控えめで、大人っぽかった。滅多なことじゃ動じないっていう感じだったよ」

同級生のバーバラ・ウィジントンは言う。「芸術家肌の人たちや、スキー仲間とつるんでいたんじゃないかしら。リッチな子たちとね。その頃からすごくキュートだったけど、とっても小さくて、いつもタートルネックを着ていたのを憶えてる。今では少し太ったけど、その当時はすごく痩せていたの。だから彼のこと、気にも留めてなかったわ。スターになるだなんて、誰も予想していなかったわよ。あ、これ、バカにして言ってるんじゃないのよ。とにかく、クラスでは静かな男の子だったわ。退屈だとか、面白みがないとか、シャイだとかってわけじゃなくて。単に、くだらないことは話さないようにしていたんでしょうね」

ヴィゴとキャンプ旅行に出かけていたマイク・タフォは、彼が特別人気者だったわけではないと語った。「学校で、彼と親しくしていた人はいないんじゃないかな」。ヴィゴは20代の前半をデンマークで過ごしている。放浪者のようなライフスタイルで、花売りやフォークリフトの運転手、ウェイター等の仕事をしていたという。

彼としては、本当はそのままデンマークに残りたかったのかもしれないが、当時付きあっていたガールフレンドがニューヨークでの生活を望んだ。そしてニューヨークに移り、演劇のワークショップに参加したことから、映画への道が開ける。その静かな情熱を表現できるルックスやスタイルが、スクリーン映えすると評価されたのだ。ウォーレン・ロバートソン劇場のワークショップを離れた数ヶ月後には、彫刻のような頬骨と割れた顎でオーディションに通り始めた。初期の数本こそ映画本編からはカットされてしまったが、ハリソン・フォードと共演した『刑事ジョン・ブック 目撃者』(1985年)でスクリーン・デビューを飾る。演じたのはアーミッシュの若者。いつでも物思いにふけっているような印象を与える彼にとって、パーフェクトな役どころだった。

その後の15年間で、ヴィゴは『カリートの道』や『プロフェシー』など30本以上の映画に出演した。その間、何度かスターダムに近づいていると言われたこともある。彼は言う。「何度も“ついにたどり着いた”って言われたよ。自分では、どこに向かっているのかもわからないのに」

アラゴルン役をオファーされた時、すでに彼は俳優として認められ、尊敬を集めてはいたものの、決してビッグ・ネームというわけではなかった。しかし、剣を片手に馬に乗った途端、パズルのピースがすべて収まるところに収まったようだ。『ロード〜』で共演したミランダ・オットーは言う。「スクリーンで初めて彼を見た時に思ったの。“なんて素敵なの。これなら、恋に落ちる演技なんてする必要ないわ”って。素晴らしい身体能力と、本当の繊細さを併せ持っていたわ」

この新たに加わった経歴によって、ヴィゴは映画界のトップスターにリスト・アップされるだろう——彼がそう望めば。しかし、彼は豪華な家を買ったり、ロデオ・ドライブをうろついたりする代わりに、『ロード〜』で得た莫大なギャラで、自然と触れ合うことのできるモンタナの森を購入した。そして、これほどの成功を収めているにもかかわらず、毎年クリスマスには決まって、古い友人のマイク・タフォが経営する地元のレストランにぶらりと現れる。いたって普通に店に入ってくると、ビールを飲みながら昔話をするのだ。「彼はすごく自分に正直なんだ」と、マイクは言う。「ひとりで店に来て、ゴルフや子供の話をする。ハリウッドの話題は出ないね。彼を見ていると、俳優というよりアーティストって感じがするよ。ムービー・スターっていう言葉がしっくりこない。もし、そんなことが話題に上っても、彼からはそっけない答えが返ってくるだけなんだ。だから、僕は彼にそんなことは聞かないし、彼のほうからそんな話題を出すなんてことは、絶対にない」

translated by chica