Film Review Special #51  2004.5
viggopicspam のスキャン
Comes A Horseman

ヴィゴ・モーテンセン、スタントとマテ茶と馬への愛について語る

viggopicspamのスキャンより このアクションヒーロー、乗馬の技で『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズに続くもう一つの大作に主演。砂漠でヒダルゴと親友になった理由を、ジョン・ミラーが聞く。

その端整な顔立ちに加え、『ロード〜』のアラゴルン、馬のレースを描いた冒険大作『オーシャン・オブ・ファイアー』の伝説的なポニー便ライダーのフラク・T・ホプキンスの勇姿で、ヴィゴ・モーテンセンは映画の新しいヒーローの地位を確立した。

ロサンゼルスで会見したFilm Reviewが観察したところでは、スクリーンの外での彼は、端正な身なりで穏やかに話す紳士で、特別なお茶を好む。上品なグリーンのスーツ姿で部屋に入ってきた彼は、奇妙な道具、銀の管がささった茶色の陶器を持っている。

彼の説明によると、これには大好きなアルゼンチンのお茶、マテ茶が入っている。こちらが興味を示したのを見て、一口どうかと丁重に勧めてくれた。試しに飲んだが、慣れれば好きになる味、とでも言おうか。それで思い当たったのだが、アメリカ人とデンマーク人の血を引くスター、ヴィゴ・モーテンセンこそ、人々がスクリーンで見慣れて好きになった存在と言える。

詩を書き、写真や絵をたしなむモーテンセンは、アクション映画のヒーロー役であると同時に洗練された知性も合わせ持つ。稀に見るおもしろい取り合わせである。

人気上昇中の英国若手女優で、『オーシャン〜』で共演したズレイカ・ロビンソンは、「『ロード〜』のモーテンセンは、勇ましいヒーローだが物静かな人でもある」と述べている。

『目撃者』のアーミッシュの農夫役で映画デビューし、『ロード〜』のアラゴルン役をスチュアート・タウンゼントから受け継いだこのスターは、役者として花開き、さらに一歩踏み出そうとしている。

一連の戦闘シーンの撮影で歯を折り、『二つの塔』のオークの兜を蹴るシーンの撮影で足の指を二本折った話は有名である。また、すっかりアラゴルン役になり切っていて、ピーター・ジャクソンがモーテンセンと言うつもりでアラゴルンと呼んでも、本人は30分以上も気づかなかったというエピソードもある。

モーテンセンがこれら二つのヒーローの役を行ったり来たりしていたのは興味深い。『ロード〜』の仕事が終わらないうちに、『オーシャン〜』の撮影に入っていたからだ。「『旅の仲間』の後、ほぼこの作品のおかげで、フランク・ホプキンスの役を手にし、『二つの塔』の公開前に撮影に入った。リハーサル中、僕が乗る馬TJと仲良くなり始めた頃に、ニュージーランドに戻って追加撮影をしなければならなかった。『オーシャン〜』撮影中、サハラ砂漠のど真ん中を含め、いろいろなロケ地で、ケータイが使える丘や砂丘に登って『ロード〜』のインタビューを何度か受けたよ。」

viggopicspamのスキャンより モーテンセンが自ら進んでスタントをこなすのは有名な話。『ロード〜』も『オーシャン〜』もそうである。これはマッチョな考え方とは全く無縁、作品の出来を考えてのことである。

「それによって、監督にも選択の幅が広がる。より近くで撮影できるし、スタントマンが入らないようにカメラを引く必要もない」と言うモーテンセンだが、そのせいで危険にさらされることもあると認めている。

「いくら自信があっても危険はある。僕は子供の頃から馬に乗っているから、馬には慣れている。ヒダルゴに乗っての撮影の前にもかなり練習した。それでも、相手は馬だから、予想もつかない。しかも、トラックの上で撮影しているのとはわけが違う。」

その予想もつかないことが起こった。モロッコの砂漠、デビッド・リーン監督の『アラビアのロレンス』と同じ場所で、モーテンセンとズレイカ・ロビンソンが一緒に馬に乗るシーンを撮影していた時のこと。オマー・シャリフ扮する有力な族長の娘役であるロビンソンが、前に乗って手綱を取り、モーテンセンがその後ろに乗っていた。比較的簡単と思われたシーンであるが、「動物と仕事をする時は注意せよ!」という諺を忘れてならない。なぜか馬が暴走し、二人はしがみついたまま、飛び越すのは絶対不可能という高い壁に向かって突進していた。事態はさらに複雑だった。壁の上には大きな瓶が二つ、その向こう側の急斜面には撮影機材や照明器具が散らばり、近くには数台のトラックが止めてあった。

乗馬の心得のあるモーテンセンには、非常に危険な状況であることがよくわかった。「馬のスピードが落ちるどころか、むしろ早くなっている感じがした。これは大変なことになるぞと思った」と彼は言う。

「周囲の物に衝突するか、馬が壁を越えるかのどちらかだった。壁を越えるのは絶対に無理だと思った。本当にジャンプしていたら、もっと大変なことになっただろうね。ある意味、建物にぶつかって、それで終わって欲しいと思ったよ。

「こんなことが心の中をかけめぐる間も、馬を抑えることはできなかった。ズレイカの後ろで、ただしがみついているだけ。車のトラブルで、運転手としては慣れているが、同乗者としては失格、そんな感じだった。」

モーテンセンがありとあらゆる混乱を想像していた、その時だった。馬が力強く飛び上がり、壁を飛び越えたのだ。その時でさえ、彼は大惨事を覚悟していた。

「馬の足が着地の衝撃に耐えらず、僕たちは地面にめちゃめちゃに叩き付けられると思った。金属の破片やら照明その他の機材の上に着地する寸前、馬はちょうど空いたスペースに着地し、僕たちも振り落とされずに済んだ。ズレイカが手綱を放したので、僕が飛び降りて、すぐに手綱を掴んだ。馬も含め、誰も怪我をしなかったのは奇跡だよ。」

その時を振り返って、モーテンセンは、悲惨な結果になったかもしれないと認める。「本当に恐かった。あっけなく死んでいたかもしれない。ズレイカはくすくす笑っていたが、今思うと、あれはショックに襲われたんだろうね。」

この劇的な出来事がカメラに捉えられなかったのは驚きである。「たとえ写っていても、特撮に見えたと思う。とても信じられなかった」とモーテンセンは言う。

撮影終了後、モーテンセンは、『オーシャン〜』で乗った馬の一頭、TJを引き取り、現在ロサンゼルス郊外で飼っている。「できるだけ乗ることにしているんだ。昨日も乗ったし、今日の午後も。僕は馬に弱いのかも。どうしてかな。『ロード〜』で乗ったケニーとユーレイアスの二頭も買っちゃったし。」

viggopicspamのスキャンより モーテンセンがTJのことを話す時には、二本足の共演者の時と同じ敬意と思いやりが込められている。

「この映画のタイトルは『ヒダルゴ(原題)』だから、馬が面白くなかったら、いい映画にはならない」と言うモーテンセン。「様々な状況での彼のリアクションは、並はずれたものだったよ。」

彼はまた、オマー・シャリフの起用が、非常に重要であり幸運でもあったと考える。シャリフは、半ば引退の状態から、『ムッシュー・イブラヒム(原題)』でのセザール賞をひっさげてビッグスクリーンに戻ってきたばかりである。「オマーがインターナショナルな映画に戻ってきて、砂漠で撮影とくれば、『アラビアのロレンス』を思い出さずにはいられない。僕たちにとって幸運のお守りなんてものじゃない。いや、ひょっとしてそうだったかも」とモーテンセンは言う。「彼があの場にいるだけで、何か特別なものが加わった。しかも、おもしろいのは、『アラビアのロレンス』と同じ場所で撮影したこともあったんだ。彼がキャストに加わったことで、映画のレベルが一段とアップしたよ。」

モーテンセンの役柄への傾倒ぶりは明らかで、『オーシャン〜』でも、スー族の言葉であるラコタ語の会話を学んだ。指導したのはソニー・リチャーズで、映画の最後に荷馬車に乗った老人の役で出ている。おうむ返しで発音できるといった程度のことではない。「中身をちゃんと理解して話していたんだよ」とモーテンセンは強調する。

ソニー・リチャーズは、メディスン・マンであり精神的リーダーである。彼がこの映画に加わったことは大きな助けになった、とモーテンセンは言う。言葉の指導だけではなく、映画に出演するゴースト・ダンサーの選抜と訓練も行った。

「『オーシャン〜』のジョー・ジョンストン監督とディズニーには、そのような努力を惜しまなかったことを感謝している。カリフォルニアで地元のインディアンやメキシコ人を使って撮影することもできたのに、わざわざサウスダコタまで行き、ラコタの人々を雇って撮影した。その多くは、実際にウーンデッド・ニーの虐殺の犠牲者や生存者と関係のあった人々なんだ。撮影に入る前に彼らは、祈りと一通りの儀式を行った。パイプを吸い、歌い、言葉を唱えながら。本当にすばらしかった。また、虐殺のあった場所から土を少し運んで来た。当然墓地では撮影できないからね。それを彼らは撮影場所に撒いてくれた。そういうこと全てを、彼らはうまくやってくれたんだ。」

『ロード〜』ブームが彼のキャリアと生活に与えた影響は大きい、ということはモーテンセンも認める。だが、その結果に流されたくはないとも思っている。「長いことやっていればラッキーなこともある、ってやつさ」と彼は言う。「『ロード〜』のような作品に出演できる役者はごくわずかしかいない。アドベンチャー大作というだけでなく、国境を越えて人々に感動を与える映画でもある。アジアの国々のように、トールキンに馴染みがない文化にも受け入れられたのは、人々が理解できる普遍的で神話的なテーマの数々が含まれているからなんだ。」

『ロード〜』に主演したおかげで、ニュージーランド航空の機体に自分の顔が描かれるのは、さぞかしすごいことでしょうねと言うと、モーテンセンは、迷惑だとでもいうように、首を横に振る。

「分かってる。でも、ぞっとするよ。」世界中で大成功を収め、あっという間に有名になったことを、彼はそう表現する。「ちょっと気味が悪いけど、すぐにおさまるさ。みんなが思っている通り、僕のエゴも僕の価値観も、周囲の出来事に縛られたりはしていない。だから、それが過ぎ去ってしまえば、それほどうんざりすることもなくなるだろう。」

非常に思慮深いこの人が、一体なぜ自分が役者として黄金期にいるのかということを、真剣に考えていることがこれでわかる。

「僕の身に起こっていることが、タイミングの問題かどうかはわからない。でも、これは運だと思う。だって、本当に才能があるのに、生活にも困っている人たちがいるのだから。なぜかって?保証がないからさ。運が転がり込んできた時に備えて、一生懸命に仕事をするしかないんだ。シドニー・ルメット監督が言ったんだけど、仕事というものはほとんどが、アクシデントに備えて出来る限りの準備をすることだと。まさにそういうことだと思う。」

ヴィゴ・モーテンセンに起こったことは幸運では片付けられないのだが、本人は、運が味方したと考えている、と言い張る。「人々を楽しませ、感動させ、出来ばえも良く、その上大人気の映画に出る、そんなことは普通役者には起こらない。さらに今度は、みんなが気に入ってくれた『オーシャン〜』への出演。こういう作品に続けて二つも出られたなんて、自分がとてもラッキーだとしか思えない。」

いや、ヴィゴ・モーテンセンは、彼が演技に注いできた努力と技と献身の報いを、今受け取っているのではないか、そんなふうにも言えるだろう。

translated by estel