IGN  2004.3.5 原文
Viggo Mortensen & Buckethead

By Spence D.

アラゴルンを演じた男が、ホラー・ギターの王様とのレコーディングを語る。

ign.comの写真 『ダイヤルM』『G.I. ジェーン』、そしてもちろん『ロード・オブ・ザ・リング』三部作。こうした作品への出演によって、ヴィゴ・モーテンセンは世間に広くその名を知られるようになった。しかし、彼は映画制作の傍ら、他の芸術にも取り組んでいる。写真家、詩人として実績を残しているばかりか、音楽の世界にも足を踏み込んでいるのだ。これまで何度かコラボレートしているのがバケットヘッド。風変わりで奇怪で実験的なギタリストである。

モーテンセンにバケットヘッドとのつながりについて尋ねると、きっと彼から穏やかに聞き返されるだろう。「彼を知っているの?彼の演奏を見たことがある?」と。もし、「ある」と答えたら(本当に、私は実際、Praxis、Painkiller、The Deli Creepsといったバンドで演奏するバケットヘッドを何度か見ている。おまけに一度、トレードマークとなっているケンタッキー・フライド・チキンのバケツと歌舞伎マスクをつけていない彼を、ちらりと見たことさえあるのだ)、モーテンセンの表情はパッと明るくなるに違いない。自分以外にバケットヘッドの超絶テクを知っている人がいるなんて!とばかりに。

非常に興味深いことに、『Vanity Fair』 を始めとする最近のいくつかのインタビュー記事が、モーテンセンとバケットヘッドの共同作業について触れており、それらの記事のほとんどが、バケットヘッドが日本人であるという誤った情報を掲載している。モーテンセンは笑う。「バケットヘッドに言われたよ。“なあ、俺のことを日本人だって言ってくれたんだって?それはいい。すごくいい” ってね。彼は(世間には)かぶっているマスクでよく知られているよね。それから日本の文化が好きだってことでも。彼は “日本の文化は素晴らしい” って言っている。僕が彼のことを日本人だって言ったのかどうか、憶えていないんだけど、日本でカルト的な人気がある、とは言ったかもしれないな。とにかく、“彼は日本人だ” っていう記述が、他のインタビューでも使われ続けている。もう、すっかり “日本人ギタリスト” になっちゃったよ。僕が日本人ギタリストと一緒に仕事をしたって書かれていると、クールな感じがするんだろうね。そういう記事をあえて訂正するつもりはない。まあ、彼は日本のニワトリに育てられたんだ、とだけ言っておくよ」モーテンセンの声が、だんだん笑い声に変わっていった。

バケットヘッドの出身の件はさておき、真実がひとつある。アクセル・ローズが再結成したガンズ・アンド・ローゼズの一員ではあったものの、街行く普通の若者たちにとって、彼は前衛的なカルト・ミュージシャンの象徴だということだ。長身でひょろりとした彼は、頭にケンッタッキー・フライド・チキンのバケツをかぶり、磁器製の歌舞伎マスクで顔を隠している。「彼は人としても、ミュージシャンとしても、とてもピュアなんだ。一緒に仕事をして、そう感じた。だからこそ一緒にできる、とも言える」とモーテンセンは語った。二人は、モーテンセンの出版社パーシバル・プレスから『The Other Parade』、『One Less Thing To Worry About』、そして『One Man's Meat』というタイトルのCDをリリースしているが、現在、そのほとんどが在庫切れとなっている。最新の作品は『Pandemoniumfromamerica』。今回は二人に加え、『ロード〜』の仲間であるイライジャ・ウッド、ビリー・ボイド、ドミニク・モナハンが参加している。

「一緒にスタジオに入っている時、僕は彼に何度も同じプレイを繰り返してくれと言ったり、何か型にはめようとしたりはしない。だから、彼も楽しんでプレイできるんだと思うよ」モーテンセンは、二人がスタジオで生み出す相互作用について続ける。「僕らが作る一曲一曲について、僕は “こうしよう” とキッチリ決めたりしないんだ。だから、彼にも好きなようにやってもらっている。つまり、彼がイマイチだと思ったものを、そのままリリースしたり、“ファイナル・ミックス” と呼んだりはしないってこと。彼は実験的なことをやったり、そうだな、いわゆる “メチャクチャな感じ” で演奏したりするのが好きなんだよね。あ、僕は彼が “メチャクチャ” だとは思っていないよ。彼は素晴らしい。僕が彼を無理やり、ある方向に向けようとしないってことをわかっていて、楽しんで演奏している。そう、僕と仕事をしている時は、バンドの型にはまる必要がないから、自分をどんどん出していけるんだ。むしろ自分を出すことを望まれている。彼が楽しんでくれているように、僕も彼との仕事を楽しんでいるよ。刺激をくれるから、もっと違うことにチャレンジできるっていう気持ちになるんだ。色々と提案もしてくれるしね。専門用語もわからない、生粋のミュージシャンじゃないヤツからツベコベ言われたら、イラつくギタリストもいると思うんだ。例えば “そうだな、こういうことを言うのは変かもしれないけど、こういうスタイルでやってみたらどうかな?このセクションはもっとスローに、ここはもっと速く。わかんないけどさ、ちょっとそう思ったものだから” とかね。バケットヘッドの場合は、僕が専門用語を使わなくても、言わんとすることはわかってくれるし、専門用語なんてどうでもいいと思っているんだよ。とにかく、僕らはうまくやっているし、実験的なことを試すのに、いい空間になっていると思うよ。そして、そこから面白い作品が生まれている。聞く人も、多少は楽しんでくれているんじゃないかな。少なくとも、僕らは楽しんだ。ある時に作ったものが、別の瞬間、ひとつの長い作品に仕上がっていくんだ。彼はすごいよ。この人生で、少しだけ彼と知りあえて、一緒に仕事ができて、本当にうれしい。今まで出会った人の中で、彼は最も個性的で、天才的で、誠実で、魅力にあふれた人物のひとりだよ。最高だ」

モーテンセンは俳優、バケットヘッドはカルト・ミュージシャン。バックグラウンドのまったく異なる彼らは、いったいどんなふうにつながりを持ったのだろう。

「本当に偶然なんだ。うん、偶然と言えるだろうね」と、モーテンセンは話し始めた。「Dove Audioという、教育用のCDなんかを作っているところがあって、彼らは僕が詩の朗読をやっていて、いくつかレコーディングもしているということを聞きつけた。で、 “今、ギリシャ神話に関するCDを作っているんですけど、それ用に何か書いてもらえませんか?” って連絡してきたんだ。それで僕は、詩を録音して、それにピッタリくるような水の音をのせてみた。ラフ・ミックスを彼らに送ったんだけど、最終的にでき上がったものを聞いてみたら、すごく美しいギターの音が加えられていたんだ。“これは誰が?” と聞いたら、“ああ、これはバケットヘッドってヤツが弾いたんだ” って教えてくれた。僕がその名前を知らなかったものだから、彼らはいくつかCDを送ってくれたんだ。聞いてみて思ったよ、“最高だ” ってね。それで、バケットヘッドがカリフォルニアに引っ越してきた時、連絡を取ってみた。何かレコーディングしてみないかって。最初はちょっとだけやってみた。で、もう少し、もう少しって増えていったんだ。録音したけれど、まだ作品になっていないものもたくさんあるよ。たぶん、いつかちゃんと形にする。最近の2作、『The Other Parade』と最新作の『Pandemoniumfromamerica』は、完全に彼と僕の二人が中心になって作ったものなんだ。楽しかったし、本当にいい経験になったよ。彼と一緒にスタジオにいて、一日仕事をした後、外に出ると決まって気持ちが少し軽くなっている。抱えている問題や、のしかかってくる責任感なんかが、なんだかちょっと緩和されているんだ。森に散歩に行ったような感覚。時間を有効に使えたり、何か特別なものを得られた日は、いつもより少し、物事をうまく運べそうな気がするよね。スタジオで仕事をすると、そういう感覚を味わえるんだ。特に彼と一緒に仕事をした時はね」

translated by chica