Süddeutsche Zeitung  2004.4.3
原文 | 英訳 (special thanks: Viggo's Celluloid Haven)
ヴィゴ・モーテンセン、カウボーイについて語る

By Gabriela Herpell

Q: そうそう、これこれ。これが有名なマテ茶ね。

え?

Q: じゃ、やっぱり、いつも自分のカップを持ち歩いているというのは本当なのね。

ああ、そうだよ。

Q: でも、どうしてこのお茶を?

とっても元気が出るんだ。コーヒーや紅茶のように、害になるものも入っていないし。マテの効果は、南米のインディオが発見したんだよ。治癒効果もあると考えられているんだ。

Q: あまりおいしそうには見えないけど。

おいしいくはないよ。効果を得るには、うんと濃くして飲まなきゃならないから、ひどく苦いんだ。

Q: お茶のことばかり考えていると思われそうだけど、本当はあなたは、写真も絵もやり、出版社も経営しているのよね。そして今度はここで、新作の冒険映画『オーシャン〜』の宣伝。カウボーイのフランク・ホプキンスを演じているのよね。

本をあげてもいいかな?この映画の撮影中に撮った馬の写真集なんだ。

Q: ありがとう。あなたが写っていないのは残念だけど。

いや、ここに一枚あるよ。古い写真だけど。10歳の頃、ポニーにまたがっている僕。左にいるのが二人の弟。それから、このヤギに乗ってるのが僕の父だよ。

Q: おもしろいわね。

どんな感じかつかめると思って。

Q: 動物に乗っている写真ね。ちょうどよかった。カウボーイの話をしようと思ってたの。じゃ、あなたのところは馬一家なのね。

うん。やぎ一家でもあるし。

Q: ふぅ〜ん。ドイツでは、マテ茶、自然、愛の表現っていうと、ヒッピーを連想するのよ。あなたはヒッピーなの?

う〜ん・・・。どういうことを言いたいのかな?

Q: あなたの存在、あなたの演技、『ロード〜』のアラゴルン、そして今度は馬好きのフランク・ホプキンス。そういうもの全てから、ヒッピーっていう印象を受けるの。

自然への親しみやある種のオープンな態度イコール ヒッピーというなら、僕は、昔も今もヒッピーだよ。

Q: ばかにして訊いたわけじゃないの。まったく逆よ。ヒッピーは、多くの面で、世の中のためになることをたくさんしたわ。

だけど、ヒッピーが皆、自然を愛し一定の視野を持っているとは限らないし、自然を愛し、全く物怖じしない人なら誰でもヒッピーかというとそうでもない。

Q: その通り。そして、カウボーイ役の人が皆、あなたのように乗馬がうまいとは限らない。

僕は子供の頃に乗馬をおぼえたし、とても得意だったから。でも、11歳の時に都会に引っ越してからは乗らなくなった。で、最近の映画の仕事で、また乗るようになったんだ。

Q: ・・・そして、落っこちるようになった?

乗馬は自転車と同じで、一度覚えたら忘れないものなんだよ。落っこちるなんて、まさか!

Q: 最後の土壇場でスピードをあげるシーンは、鞍なしだったわよね。あんなにスピードを出して恐くないの?しかも、裸馬でしょ?

もちろん、恐かったよ、ほんと!子供の頃は、いつも落馬してたけど、全然恐いと思わなかった。追っかけていって、また乗るんだ。追いつけない時は、歩いて家に帰ったよ。今は、猛スピードで走っている時は、地面を見ながらこう思う。「ここで何か起こったら、ほんとに痛いぞ」って。

Q: 男の人って、そんな風じゃないって思ってたけどなぁ。

男だって、不死身じゃないって思う時があるんだよ。確かに、恐怖って嫌なものだけど、考えようによっては、健全だと思うんだ。一種の自衛本能みたいなものだから。

Q: でも怖がっているように見えないけど?

映画で馬に乗っている時は、足の下に馬がいるなんて考えずに、演技のことだけ考える。そうすると気が紛れるんだ。この映画の最中、常に自分に言い聞かせていたよ。「もちろん、俺にはやれる」って。そうしたら、普段なら馬の上では絶対にやらないようなことができたんだ。これからは二度とはやらないけどね。

Q: 『オーシャン〜』で乗った馬のTJを買ったのよね。

とても仲良くなったからね。『ロード〜』で乗った、大きなダークブラウンの馬も買ったんだ。A mixed blood(混血種さ)。

Q: 朝になると、自宅の牧場の寝室の窓から、おはようって鳴くの?

いや、残念ながら、そうじゃないんだ。スペースがなくて、TJは郊外の友人のところにいる。もう一頭はまだニュージーランド。追加撮影で乗った後、時間がなくて、カリフォルニアに連れて来ていないんだ。

Q: じゃ、住んでいるのは田舎じゃないのね?長いこと狭い所にいるのは耐えられないことで有名なあなたなのに。

自然は好きさ。でも、息子のヘンリーはロサンゼルス生まれで、友人もいるし、学校もある。まだ自宅に住んでいるんだ。だから、僕も町に住んでるんだよ。

Q: だいぶ前に奥さんと離婚したのよね。息子さんはあなたと暮らしているの?

両方とだよ。半々に。

Q: 何の問題もなく?

うん、とてもうまくいってるよ。

Q: ニュージーランドで数年暮らすことさえなければ・・・よね。でも幸い、アラゴルン役を引き受けるように説得したのは息子さんよね。違った?

彼は、ストーリーを知っていて、いい仕事だと思ったんだ。それでも、最初僕は断ったんだ。原作も読んでいなかったし、原作のファンがあの役をやる方がいいと思ったから。でも今は、やってよかったと思ってる。

Q: 撮影で数年間も長髪に髭だったのに、またブロンドに戻って、髭もなくなったのね。どんな気持ち?あれだけやったのに、もうアラゴルンの顔じゃないっていうのは。

ほんとに、ほんとにうれしいよ。

Q: あなた、ほんとにわかってるの?あなたのぴっちりした乗馬服姿を見たいがために、夫や子供と『指輪』三部作を見に行く女性が大勢いたのよ。

お世辞でもうれしいね!僕はアラゴルンの衣装と剣を記念にもらって、それで十分さ。

Q: 全然さびしくない?

アラゴルン役が恋しいと思うことはあるよ。たとえば、毎朝同じ衣装をつけて撮影の準備をしたこと、冗談を言い合ったことなんかね。これだけでもすでに、普通の撮影には見られない信頼関係なんだ。ほんとに長い時間、みんなで一緒に過ごしたからね。

Q: ニュージーランドの森の湿った土壌と熱帯の暑さじゃ、確かに、親密度も高くなる・・・

大抵の撮影に比べて、労働環境はきつかった。でも、それがこの職業の本当におもしろいところでね。つまり、何かに扮装して、今日は森、明日は砂漠へとプレイしに行く。そして、盛り上がりのあるリアルなゲームになるようにベストを尽くす。これこそ夢さ!子供ならそんな風に暮らしたいと思うだろうな。さらに、世界中を旅して、演じているキャラクターの目を通して世界を見ることができる。総理大臣や野伏やフランク・ホプキンスの目から見た世界なんて、とてもエキサイティングだよ。

Q: 『オーシャン〜』は、愛馬のマスタングで砂漠横断の3千マイルレースに参加し、純血のアラブ馬との戦いを制した男の実話に基づいているというふれこみだけど、この映画をめぐっては、ちょっとしたスキャンダルがあるそうね。こんなレースはそもそもなかったとか、ストーリーの半分はホプキンスの作り話だなんて批判を書いてる人もいるけど、気になる?それとも、たかが映画って思う?

『オーシャン〜』はクラシックなアドベンチャー映画なんだ。もしこれを、聖書の福音書のようにまじめに考えてしまうと、この映画には攻撃される要素が生じてくる。つまり、フランク・ホプキンスの話は嘘だと証明しようとする人が出てくるってこと。なぜかって?この映画に出てくるシークたちと同じで、侮辱されたと思っているからさ。“たかがマスタングが、高貴なアラブの馬と同じかそれよりすぐれてるって?そんなこと許せない。純血かどうかが重要なのだ。純血種の血は他よりすぐれている”って。そういう考えが、いやというほど悲劇を生み出してきたのに。ドイツにいる君なら、誰よりもそれがわかるよね。

Q: シークたち以外に、そんなにまで熱烈なアラブ馬のファンって、一体どんな人たちなの?

この映画をめぐる議論を先導しているのは、オライリーという夫妻で、ケンタッキーにあるロングライダーズギルドのメンバーなんだ。アメリカで一番足が速く、最も純血の馬の産地ということで、彼らの目にはアラブ馬の血が神聖にうつるんだろう。オライリー夫妻はアラブ馬のファンで、それ以外の馬には絶対に乗ろうとしない。彼らは、自分たちの名誉とアラブ馬の名誉が傷つけられたと思っているんだ。その怒りといったら、もう異常だよ!アラブ馬に勝ったマスタングなんているはずはないってことを、この二年間せっせと証明しようとしているんだ。もう狂信的としか言いようがないよ。そう思わない?

Q: もちろんそう思うわ。でも、フランク・ホプキンスの話が本物だってどうしてわかるの?

ダコタとモンタナのインディアン特別居留地で、役づくりのために、大勢のカウボーイ、牧場労働者、インディアンと会って話したんだ。皆フランク・ホプキンスのことを話題にしたよ。別に彼らはディズニーに雇われているわけじゃない。でも、ホプキンスのことをとても好意的に話すんだ。彼は伝説的人物だって。もちろん、彼の愛馬も。彼はほら吹きだって言う人がいてもおかしくない状況でだよ。

Q: 相当彼に惚れ込んでいるのね。

フランク・ホプキンスは、アメリカのカウボーイの典型なんだ。この映画のように、全く違う世界に投げ込まれても、節度ある振る舞いをする。礼儀正しく、寛大で、好奇心もある。相手の習慣を尊重し、もう仕方がないという時にだけやり返す。カウボーイのいい見本だね。しかも、好奇心旺盛だから、自分がそこから学んで成長する余地もある。

Q: そんな立派なカウボーイってまだいるの?

僕は大勢出会ったよ。その一人が、レックス・ピーターソンだよ。僕にまた正しい乗馬を教えてくれた人。彼は、僕が子供の頃にイメージしていたカウボーイそのものなんだ。個人主義で、自由な意志を持った冒険家。人生が与えてくれるものには何にでも興味を示す。そしてもちろん恐いもの知らず。

Q: まさにヒーロー。そしてもちろん、親友は馬・・・よね。

そうだよ。でも、馬鹿にしないで欲しいな〜。僕にとっては、プラスのイメージなんだから。カウボーイは、なにもステットソン(訳注:カウボーイハットの商標名)をかぶったアメリカ人じゃなくたっていいんだ。

Q: じゃ、どんな人?

パルツィヴァル(訳注:ゲルマン聖杯伝説の騎士)なんかはヨーロッパのカウボーイだし、サムライだってカウボーイさ。僕にとって、カウボーイは騎士のような人なんだ。古くさいから、よくわかってもらえないだろうけど。

Q: どうしてわかってもらえないってわかるのよ?

そんな感じだからさ。

Q: でも、それ、ちょっと理想主義的じゃない。って言うか、カウボーイよりアラゴルンって感じがするけど。[正解、ベイビー!(訳注:英訳した人のコメント?)]

そうは思わないな。ファンタジー物語の人物というのはさておき、アラゴルンは世界中を旅しているから、あらゆる言葉を話し、あらゆる文化を知っている。彼がオープンで賢いのは何も難しいことじゃない。一方、カウボーイは世界を知らない。でも、知りたいと思っているんだ。でも、君の言いたいこともわかるよ。アラゴルンと僕の理想のカウボーイには共通点もある。自然との深いつながりと、控えめで孤独なところがね。

Q: 一方あなたは、ハリウッドで最も有名なスターの一人。ほんとに自分にふさわしい生活をしていると思う?

そんな人いる?いないと思うな。僕は何とか我慢してやってる。たとえば、今日のような日。次から次へとインタビューがある。考えようによっては、だまって座って同じことを言ってりゃいい。でも、それじゃほんとにつまらないだろ?実際の会話をした方がずっとおもしろい。時々相手に変な質問をされてもね。

Q: よ〜し、それじゃ、変な質問を一つ。『オーシャン〜』で馬を飛ばしてるけど、どうして帽子が落ちないの?

額までぎゅっとひっぱればいいんだ。ちっともおかしくないよ。ずっと昔からのカウボーイの秘密なんだから。

(この後の経歴の部分は省略。)

translated by estel