Famous  2005.9
ヴィゴ・モーテンセンインタビュー

秋期、ホリディプレビュー

評判のデイヴィッド・クローネンバーグ作品『ヒストリー・オブ・バイオレンス』で、シーズンは爆発的にスタート。主演のヴィゴ・モーテンセンが、グレーの色合いでその役を塗ることについて語る

By Ingrid Randoja

俳優の中には、その人物と芸風を特徴づけるような性格を持った人がいる。トム・クルーズはまじめさをにじませ、ジョージ・クルーニーはのんきさをちらりとのぞかせ、そして、ヴィゴ・モーテンセン、そう、モーテンセンは正義を表わす。

きっとそれは、この46歳の役者が演じた『ロード・オブ・ザ・リング』の王アラゴルンの影響だと思うかもしれない。しかし、実はそれ以上なのだ。ヴィゴ・モーテンセンなら、本当に悪い奴を演じていても、正しいことを行うだろうという感じがするのである。

おそらく、そのことが頭にあって、デイヴィッド・クローネンバーグは、その緊迫感溢れるスリラー『ヒストリー・オブ・バイオレンス』の主役にモーテンセンを選んだのかもしれない。この作品は、昨年、オンタリオ州南部で撮影が行われ、今年春のカンヌ映画祭でのプレミアで批評家の称賛を浴び、今月のトロント国際映画祭でガラ上映されることになっている。

[以下、ストーリーに触れる部分は省略。]

「トムは、白い帽子から黒い帽子に変わるのとは違う。」 モーテンセンはロサンゼルスからの電話でそう語る。「僕もそうだが、デイヴィッドが望んだのは、トムの変化は微妙なもので、観客はどの時点で変化が起こったか特定できない、ということだった。人は、自分の考えや感情を表に出さないのが普通だからね。表に出すのは安全じゃない。とにかく、生き残るかどうかの問題なんだ。ほとんどの人は、自分の中に何かを秘めているのが普通だし、またそうするのが賢明だろう。

「そういう意味で、トムは他の人と全く変わらない。もちろん、彼が仕方なくやっていることは、たいていの人が対処しなければならないことよりは、少しきついものだけどね。」

モーテンセンは、魅惑的な演技を見せている。特に、観客が、彼が演じる男の真実を示すしるしが何かありはしないかと、彼の身振りの一つ一つ、中途半端な笑いの一つ一つ、否定の訴えかけの一つ一つを注意して見ているからだ。

この俳優は、クローネンバーグのさっぱりとした監督スタイルの下で成功している。それは、派手なカメラの動きや仕掛けの効果はより少なく、カメラを俳優たちに向けてストーリーを語らせることのより多い手法である。暴力的なシーンでも、しかも、爆発的な場面はほとんどないのだが、楽しませることを意図したものではない。

「映画の中の暴力は、たとえ非常に血なまぐさく描かれていても、全てを覆うゼラチンや砂糖の衣のようなものを持っている。スローモーションで撮られていたり、ある程度美化されていたり」と、モーテンセンは言う。

「デイヴィッドは、この映画では全てが客観的であるよう、意識的に心がけたと思う。実際、この映画の撮影方法や編集方法は、非常に冷静で客観的な見方をしている。それによって、映画がよりリアルに、また、必要な時にはやや冷たくも感じられる。観客に残されたものは、事実と行動と関係だけ。魅力的なアングルの裏には何も隠されていない。あるのは事実だけなんだ。」

モーテンセンは、この映画は、1952年のゲイリー・クーパー主演の『真昼の決闘』に似た点があると言う。この西部劇は、ある町の保安官が、ならず者を殺そうと立ち向かう決意をした時、友人と家族に見捨てられるという話である。

「1950年代に『真昼の決闘』が公開された時、これは非常にユニークで、この手の西部劇では草分け的な作品と考えられた。観客が気づいたかどうかは別として、道徳性と政治性に関して、いくつかの難問を投げかけている。僕らの映画もそうだと思う。ある時点で、観客はきっと、『これでうまくいくのだろうか』と思っただろう。すると、突然、実にうまくいくんだ。もちろん、ゲイリー・クーパーがいたからだけど、それでも・・・。」

彼は自分をクーパーの同類とは見ていないようだが、モーテンセンは、クローネンバーグが、彼の演技能力を最高に引き出してくれたと考えている。

「こういうことは君たちもいつも聞いているだろうし、決まり文句に聞こえるだろう。『ワーオ、なんてすばらしい経験なんだ』なんてね」とモーテンセンは言う。「だけど実際、デイヴィッドとのコラボレーションは、実にすばらしいものだったよ。その多くが、言葉によらないものだったから。彼とは常に、非常にクリアで、理路整然として、とても満足のいく会話ができたと感じたよ。無駄な言葉は少なかったし、途中でたくさんのユーモアもあったしね。」

そういうユーモアとジョークのセンスは、モーテンセンとクルーとの関係にも伝わっていった。トロント地域のホッケーファンのクルーは、この俳優に、メープルリーフスファンの中で働くことがどういうことかを特訓した。[注:原文の"Leafs Nation"は、トロント・メープルリーフスの公式雑誌。]

「僕は[モントリオール・]カナディアンズのファンだから、この映画のクルーとは繰り返しジョークを言っていたよ。僕はニューヨーク北部のキングストンからセントローレンス川を隔てた所で育ったので、いつもモントリオールのファンだったんだ。ある日、僕はこんな間違いをしでかした。何も考えずに、モントリオールのTシャツを着て行ったんだ。僕を見たクルーが、『何ってこった!どういうつもり?』って言うんだ。その時、僕は気づいた。『しまった!そういえば、こいつら、毎日メイプルリーフスのキャップをかぶってるぞ』って。

だから僕は、毎週木曜日には、モントリオールのTシャツだけじゃなく、モントリオールの赤いホッケージャージを着てやったんだ」と、モーテンセンは笑いながら言う。

このまじめな俳優が笑うのを聞くのは、すごいことだ。この人は、演技に加え、絵画、写真、詩も手がけ、ティーンエイジャーの息子(離婚したパンクロックの女王イクシーン・サーヴェンカとの間に生まれたヘンリー)も育てているが、さすがに疲れたと認めている。『ロード〜』三部作の後、世界を回って、馬のレースを描いた歴史映画『ヒダルゴ』を撮影し、それから『ヒストリー〜』をやり、さらに、17世紀の歴史アクション映画『アラトリステ』を完成させて、スペインから戻ったばかりである。この人には休息が必要だ。

「しばらく家を離れていたから、片づけなければならないことがたくさんあるし、まだ手をつけていないこともたくさんある。家族についても、他の関心事についてもね。写真とか絵とか本とか」と、モーテンセンは認める。

だが、もし、すぐれた役が回ってきたら?

「でも、誘惑とはそういうものなんだ」と彼は説明する。「何か仕事が必要だと本当に感じている時には、砂漠のように何もない。そして、ある決意をした時、たとえば、長く家を離れすぎたとか、多くのことをふいにしてしまった、多くのエネルギーを使い果たした、自分に再充電が必要だとか、そういうことを口にした途端、突然、これまで読んだ中で最もすばらしいストーリーが送られて来たりする。

「その時は、どっちみち、本気かどうかわかるし、実際本気なんだ。そうでなければ、落ち着いてやってられないよ。」

translated by estel