Playback Magazine  2005.8.15

デイヴィッド・クローネンバーグ:輝ける才能の歴史

気品とひねりのユーモアと

by ヴィゴ・モーテンセン

ヴィゴ・モーテンセンは、デイヴィッド・クローネンバーグの新作「ヒストリー・オブ・バイオレンス」の主人公トム・ストール役で、すばらしい演技を見せている。

監督の下で働く時のきわめて好意的な感情を、言葉で表現することは容易ではない。皆の前でいつものようにこびへつらい、破廉恥なご機嫌取りで知られる業界で、自らのキャリアを売り込もうとする者の口ぶりに聞こえるからだ。

このように述べた上で、デイヴィッド・クローネンバーグと仕事ができたことを感謝する人々はすでに大勢いるだろうが、自分もその一人であることを非常にうれしく思う。この20年、大勢の才能ある人々の下で仕事をする幸運に恵まれたが、非常に多くの面で、これほどすんなり意気投合した監督はいない。初めての出会いの時から、会話は常にオープンで、敬意に満ち、そして刺激的である。

時には時間に追われ、悪天候や、撮影につきものの様々な障害に阻まれながらも、デイヴィッドは、節度ある態度とひねりの効いたユーモアを決して忘れることはなかった。彼は、徹底した準備を行い、綿密である一方、適時のアクシデントや、他からの情報提供があった時、あるいは、彼の豊かな想像力がなぜか影をひそめる気配がする時には、いつでも自由に軌道修正を行う類い希な能力を持ち合わせている。このことは、彼のすぐれた知性と、生来の気品を示すばかりでなく、彼が、自分自身や、苦労して得た経験を冷静に 用いる能力に、不自由していないことを示している。

彼になら、僕はいつでもまた喜んで、こびへつらいたいと思う。

translated by estel