TwinCities.com  2005.9.28
ルネサンスマン、キャリアの転機となる役に挑む

By Chris Hewitt

トロント発—トロント映画祭期間中のヴィゴ・モーテンセンの臨時本部は、部屋の一角以外はがらんとしていた。そこには、三脚の上にプラスチックの買い物袋がかぶせられたオブジェがあった。

映画『ロード・オブ・ザ・リング』のホットな英雄の役で最も知られるモーテンセンであるが、そのオブジェにはなるほどと思わされる。この俳優は、詩集を数冊出版し、『ダイヤルM』にはその絵画作品が使用され、金曜日公開の新作『ヒストリー・オブ・バイオレンス』では称賛を得つつあるルネサンスマンなのである。

モーテンセンがトイレに行っている間、袋の載った三脚のオブジェが、我々の使い捨て文化に対する一つのコメントなのか、それとも、芸術と現実の関係に関する黙想なのか、私は決断を下そうと考えた。結果、それは彼の荷物であった。

「僕の荷物が見たいの?」 手洗いから出てきて、「オブジェ」への私の視線を目で追うと、モーテンセンはそう尋ねた。「何が入っているか見てみよう」と言って袋から取り出したのは、下着、Tシャツ、釣りの記録が書いてあるものが一枚と「我らの兵士を帰還させよ」と鮮やかに書かれたものが一枚、それに国連旗であった。「僕の旅は身軽なんだ。」

映画史上最大の大作『ロード〜』でほぼ三年間も苦労して働いた後では、キャストも少なく、ジレンマも現実並みの『ヒストリー〜』は、これまた身軽な旅だったにちがいない。ディヴィッド・クローネンバーグ監督のこの作品で、モーテンセンは主人公トム・ストールを演じている。家庭的な男で、ギャングが彼の食堂に立ち寄り、彼には秘密の過去があると申し立てた時、その穏やかな存在が表にさらけ出されてしまう役である。

クローネンバーグの作品をみると、彼はどこかフリークではないかと思わされる。1996年の『クラッシュ』は、自動車事故で性的欲求が満たされるされる人々を描いている。『戦慄の絆』では殺人傾向のある一卵性双生児の婦人科医が主人公であり、『ザ・ブルード』は、女性の体の腫瘍から出てきて殺人を犯すこびとの話である。しかし、モーテンセンは、その見方は真実からかなりかけ離れていると言う。

「彼の作品はかなりコントロールされているので、そういう評判が出てくるのかもしれない」とモーテンセンは言う。「だけど、彼は本当の紳士だよ。それに、ひねくれたユーモアのセンスがある。この映画からもそれがわかるよ。外の世界に対して見せる顔の裏で、我々が皆いかに狂っていてひねくれているかということが語られていても、この映画にはそういう並外れたユーモアも含まれているんだ。」

いやな感じのする時にもユーモアがわき起こった、とモーテンセンは言う。「不穏な撃ち合いの場面を撮影していた時、監督の方を見ると、モニターでその場面を巻き戻して見ながら、クスクス笑っているんだ」とモーテンセン。「よそよそしい人だと思われているようだけど、彼は毎日ちゃんと姿を見せ、この映画作りには熱心だったよ。」

これはアメリカが舞台の映画であることと、いくつかの作品が反アメリカ的と解釈された今年のカンヌ映画祭でプレミア上映されたことで、『ヒストリー〜』は「アメリカ人は銃に関して愚かではないのか?」的映画であるという評判ができてしまった。ばかばかしい、とモーテンセンは言う。

「アメリカについての映画でさえないのに。そういう解釈はあまりにも単純だよ」と彼は言う。「これはどこにでも起こりうるストーリーなんだ。つまり、我々は互いに秘密を隠しているということ、そしてまた、その秘密が途方もなく大きな結果をもたらすことがあるということ、それは普遍的なものだよ。」

「秘密とは危険なもの」というテーマは、モーテンセンのキャリアの転機とも言える演技に表れている。その中で、暴力がトムの一家を脅かす時、特殊効果の助けもなく、我々の目の前で、トムが変容するような驚くべきシーンがある。

「あのシーンは気に入っているよ。あの場面で僕が好きなのは、7人の人物が登場すること。ディヴィッドはまるで芝居のように撮影したので、見る側には、7人全員が事態をどう見ているかがわかるんだ」とモーテンセンは言う。「あのシーンこそ、反暴力の映画であることの理由だと僕は思う。いかなる瞬間にも暴力の使用を拒否する機会はあるのだ、ということが描かれているから。それに、暴力がいかに我々の生活の一部になっているかということも描かれていると思う。人の話を聞かないというようなささいな暴力のようなものであっても。」

その基準からすると、モーテンセンとクローネンバーグは、仕事では完全に暴力的でない関係にあった。「ディヴィッドはパートナーであり、洞察に満ちた協力的なボスだった。こちらの言うことに関心を示すふりだけ見せる人々の仲間ではなかったよ」とモーテンセンは言う。「監督が良い聞き手であるというのは非常に論理的なことなのに、それがいかに稀かということには驚かされるよ。」

translated by estel