Vanity Fair (Italy)  2005.12.22 英訳
帰ってきたヴィゴ (そして、もし彼を怒らせたら・・・)

by Paola Jacobbi

『ロード・オブ・ザ・リング』の英雄戦士アラゴルンは忘れなさい。彼の新作『ヒストリー・オブ・バイオレンス』では、ヴィゴ・モーテンセンは初めはいい人間だが、その後は・・・。がっかりする前に、彼と一緒にマテ茶でも飲みに来なさい。詩集を出版し、あなたが結婚したくなるような、もの静かな紳士に出会うでしょう。しかも、彼は今独身なのだから。

ヴィゴ・モーテンセンへのインタビューは、9月20日にニューヨークで行われた。映画史上最もミステリアスな女優グレタ・ガルボの誕生日の2日前だった。顔にシワが現れる前に、映画シーンから立ち去った女神グレタ・ガルボ。人々が80歳を過ぎても美しくかつ有名でいたいと願うこの時代に、きわめて特異なこのエピソードに、イギリス人の作家ゼイディー・スミスがガーディアン紙に記事を捧げている。ヴィゴ・モーテンセンが設立した出版社パーシヴァル・プレスのホームページには、このスミスの作品が取り上げられている。この一致のために、そしてまた、ヴィゴが半分デンマーク人(スウェーデン人のグレタと同じスカンジナビア人)ということで、このインタビューにはグレタ・ガルボのゴーストが影響を与えていた。

ヴィゴ(47)にはシワがある。笑うと特に、その角ばった顔にシワが現れ、その目は物憂げである。『ロード〜』の戦士である王、英雄アラゴルンで有名になった人にしては、ごう慢ではなくシャイな笑みである。

背が高く、グレーのスーツに格子のシャツ姿の彼は、首にペンダントをしている。メダル部分の縦じまは、遠くからは、ミランのカラーの赤と黒のように見える。しかし、それは赤と青で別のサッカーチームの色であることに気づいた。ブエノスアイレスのサンロレンソである。彼はサッカーが大好きなのだ。彼は、10年前にオリンピコ・スタジアムで、ASローマ対ラッツィオの試合(ダービー・マッチ)を見たことをおぼえている。彼曰く、「最後はひどかったよ。激しい衝突と大勢の警官とで。」

彼の父親はデンマーク人で、母親はアメリカ人である。ヴィゴはアルゼンチンとベネズエラで育った。サンロレンソの団旗に加えて、彼がいつも持ち歩いているもう一つの「小物」についても、これで説明がつく。それは、南米の苦いお茶、マテ茶を飲む入れ物である。すぐに彼は私にも少し飲ませてくれた。何て親切なことか。装飾のある自分の銀のストローで、である。この俳優は普段は、ロサンゼルスにある、木々と峡谷の陰に隠れた家で、パンク歌手イクシーン・サーヴェンカとの間の息子ヘンリー(16歳)と暮らしている。

『ヒストリー〜』でのモーテンセンは、インディアナ州の小さな町に住む一家の良き父親で、食堂を経営している。ある日、二人の強盗がやって来るが、彼はその二人を殺し、小さな町の良き人々を守ったヒーローとなる。しかし、その突然の暴力行為により、彼の過去のアイデンティティーが明らかになる。彼の妻も子供たちも、誰も知らない恐怖の過去が。その発覚が一連の復讐を引き起こし、次第に恐ろしさを増していく。

ヴィゴもまた、彼なりの二重の(いや、三重、四重の)生活を送っている。実際彼は、俳優以外に、たくさんのことを行っている。パーシヴァル・プレスでは、音楽CD、詩やエッセイ、写真、絵画の本を出版。彼自身詩を書き、作曲もし、写真家であり、画家でもある。どれもみな実験的で洗練されている。

Q: あなたのあらゆる活動の中で、演技をすることが一番つまらないと思う人もいるでしょう。役者をやっている理由は?お金?虚栄(vanity)?

A: いいかい、映画はとてもすばらしいものでもあるんだ。クローネンバーグの作品とか・・・。

Q: プロモーションだからではなくて?

A: 僕と仕事との関係は常に対立状態なんだ。プロモーションのように、ばかげた仕事もあるよ。他のやりたいことだけでなく、家族や友人といる時間も奪われる。だから、このまま役者を続けていくかどうかはわからないな。

Q: ガルボのように?

A: 時代は違うけれど、彼女の行動は何て威厳があるんだろう!

Q: 『ヒストリー〜』の後、もう一本、スペインで『アラトリステ』の撮影がありましたよね。

A: 映画への信頼を与えてくれた2本だよ。もうやめてもいいくらい満足してている。

Q: あなたの俳優としての生活は、『ロード〜』の「前」と「後」に分かれますが、その良い点、悪い点は?

A: 良い点は、今言ったような映画に出られたこと。僕が関わっていなかったら、クローネンバーグのようなあまり商業的でない映画の監督は、予算が得られず、大作は実現しなかっただろう。悪い点は、人気による束縛かな。クレイジーな人間が大勢いるよ。彼らは僕がスクリーンの中の人物と同じだと考えているんだ。それに、パパラッチもいるし。

Q: 何が不満なの?ブラッド・ピットのように狙われているわけじゃないのに。

A: それは、僕が隠れるのが得意だからさ。

Q: 離婚して、(画家ジュリアン・シュナーベルの娘ローラとの)新しい噂があって、今は独身ですよね。

A: その通り。

Q: 明日パリス・ヒルトンと婚約でもしたら、誰もあなたをそっとしておかないでしょうね。別の人生を歩まない限り・・・。

A: 雑誌に載りたいがために、人とつき合い始める人たちもいる。全く信じられないことだね。僕に関しては、数年前、LotRが最高潮の頃、僕と元の妻が金銭をめぐって争っているというウソの記事が雑誌に載ったんだ。デンマークのおばが電話してきたよ。残念だって。僕もとてもがっかりしたよ。

Q: そこまでするとは・・・

A: そうなんだ。それに、僕は子供の頃から、一人でいるのが好きなんだ。家やホテルの部屋に一人でいる時は、テレビを観たり電話をしたりする必要性を感じない。むしろ逆で、それだと人からもっと離れている気がする。実際に人と会った時の方がうまくやっていけるとわかったんだ。

Q: スポットライトにさらされる職業をなぜ選んだのか、まだ話してくれませんね。

A: はっきりした答えがないんだ。役者としての初めての経験は学校で、8歳の時だった。『聖ジョージとドラゴン』の劇で、僕はドラゴンの尻の役。とても楽だったよ。まじめにやってみようと思ったのは、ニューヨークのワークショップで22歳の時。初めての舞台では、コチコチになってしまって、小さい声でしゃべっていたら、監督が僕に向かって、「もっと大きく、もっと大きく!」って怒鳴るんだ。僕の声はさらに小さくなり、ささやきながら退場したよ。

Q: 正式な映画デビューは、ピーター・ウィアー監督の『目撃者』でアーミッシュの役でしたね。でもそれ以前に、ウッディ・アレンの『カイロの紫のバラ』に出演したものの、編集でカットされたとか。

A: あれはフェアじゃないよ。その映画に出るって友人や親戚に知らせてあったのに、僕には誰も「カットされた」って言ってくれなかったんだから。監督ならそういうことを心配すべきだよ。でも、ウッディ・アレンもピーター・ジャクソンのように、いつも実際に使うものより多く撮影するからね。

Q: ジャクソン監督といえば、ニュージーランドにほぼ二年も住んだのですよね。三部作撮影の間・・・。

A: 少なくとも十回は、南島を車でくまなく旅したよ。ある時、一頭のアザラシが海から上がって来て、魚を大量に殺したんだ。自然現象についての生きた図書館のようだったよ。

Q: 魚の話はおいといて、アラゴルンと三部作に取り憑かれたということは?

A: とても変な夢を見たよ。特に激しい戦闘シーンの撮影があった月にはね。夜働いて、昼間寝ていたんだ。夢がヒントを与えてくれたことも何度かあるよ。

Q: あなたは今47歳で、成功は遅いほうでしたね。あなたのキャリアにとって、年齢が障害になると思いますか?それとも、すでに自分はハリソン・フォードやショーン・コネリーのようだと思いますか?

A: 確かに、外面的な美しさで判断される女性より、男性の方がチャンスは多いだろうね。でも、メリル・ストリープをみてわかる通り、知性と才能があれば、その障害は克服できると思う。

Q: 今は、男性にとっても、若くて美しいことが重要ですが。

A: 長い間女性を不安にさせてきた化粧品産業は、今度は男性を惹き付けている。シワや白髪や鼻毛を取り、ヒップアップし、ペニスを大きくする。笑っちゃうね。

Q: あなたは自分のために何もしていないの?

A: 外で過ごし、食べ物には気をつけているよ。

Q: 有名になってから、お金に関しては変わりましたか?

A: ノー。僕は常に稼いだくらい使ってきた。今はもっと使えるということさ。

Q: 成功はドラッグみたいにならない?

A: 僕はこの5年間で、50年分のスポットライトにあたった状態なんだ。僕にはそれでもう十分だよ。

インタビューも終わった。パーシヴァル・プレスについて話すのに、まだ何分か残っている。ヴィゴは、私に最新情報があったら知らせると約束してくれた。一週間後、ミラノのVanity Fair編集部に、本とCDがぎっしり詰まった箱が届いた。ヴィゴは約束は守る人なのだ。


映画評

ストーリーを忘れるほどスターが美しい時

by Mariarosa Mancuso

ヴィゴ・モーテンセンがあまりに美しいので、ストーリーを忘れる危険がある。2、3のシーンが心に残る。食堂のカウンター前での格闘。床に2つの死体が残る。全く穏やかな夫婦のセックス。相手はチアリーダーの格好をしたマリア・ベロ扮するエディ。一家の秘密はまだ保たれている。そして、家の階段の上での激しいセックス。過去がよみがえり、それが媚薬となる。『ヒストリー・オブ・バイオレンス』はジョン・ワグナーとヴィンス・ロックのグラフィックノーベルが原作である。しかし、『シン・シティ』のような非現実的な狂気を考えてはいけない。コミックの中でも、リアリスティックな人間は可能であり、また、ノーマン・ロックウェルの絵のようであることも可能である。家、庭、二人のかわいい子供のいる完璧なアメリカの一家、シリアルのヘルシーな朝食。

ディヴィッド・クローネンバーグは、いつもよりホラーが少ないように見える。ハエに変身する男もいないし、現実と勘違いするほど完璧なテレビゲームもない。一つの正当防衛の行為とテレビインタビューが、顔に傷のあるエド・ハリスを静かな田舎町へと引き寄せる。何もかも以前のようではなくなるだろう。いや、ひょっとすると以前と同じになるかもしれない。

translated by estel