By Dennis Hensley
ある貴婦人の肖像」と「G.Iジェーン」で、ヴィゴ・モーテンセンは10年以上に渡る脇役人生からハリウッドのトップに踊り出た。そして今、「ダイヤルM」で、またしても彼の株は上昇している。
若い俳優たちが、1〜2本の作品に出ただけで派手に売り込まれて浮き足立ち、一歩踏み違えただけで奈落の底に叩き落されるようなこの時代に、39歳の遅咲きのヴィゴ・モーテンセンは新鮮に映る。アレクサンダー・ゴドノフの弟を演じた「刑事ジョン・ブック―目撃者」でデビューした後、モーテンセンはたくさんの作品に出演している。ただ、それらの作品のタイトルは知られていても、彼自身が、いわゆる主役のように目立っているものはなかった。「ある貴婦人の肖像」でニコール・キッドマンと共演し、セクシーな求婚者という役柄を演じるまでは、誰も彼に目を留めなかったのだ。人々は当然、彼を新人だと勘違いした。ハリウッドの大物たちも、躍起になって彼の情報を集め始め、デミ・ムーアは、「G.Iジェーン」で彼をキャスティングした。魅力的な、“詩は読むけれど常軌を逸している” ネイビー・シールの教官という役どころに。現在上映中の「ダイヤルM」では、グィネス・パルトロウと “半分情事、半分殺意” の関係を持つアーティストを演じている。モーテンセンは、そのキャリアの中で最もホットな時期を迎えている。彼の次なるプロジェクトは、ガス・ヴァン・サントが監督する話題のリメイク作品「サイコ」である。
Q: 最初からそのルックスを強調していたら、もっと早くブレイクしたんじゃないかな?
見てくれが大事な役のオーディションは、たくさん受けたよ。でも、役はもらえなかったんだ。そういう役のカメラ・テストは、たぶん2ダースほどは受けてる。ひとつも引っかからなかったけどね。僕のオーディション・テープが、全部どこかに存在しているかと思うと、ぞっとするよ。
Q: 見てもいいかな、って思うテープはある?
ひとつだけ。パトリック・スウェイジがやった「3人のエンジェル」(1995年)のオーディション・テープかな。
Q: ドラアグ・クイーンの格好をしたんだね。どんな風に?
服はシャネルだったと思うんだけど、ジャクリーン・オナシス風の格好をして、髪形はアン・マーグレット。オーディションの前に、ちょっと練習が必要だと思って、友達のバレリア・ゴリノ(女優)を呼んだんだ。彼女が僕をドレス・アップしてくれたよ。で、真昼間からニューヨークのブロードウェイを歩いたんだ。誰も驚かなかったよ。口笛を吹かれたりはしたけど。
Q: スクリーン・テストはどんな感じだった?
「When I Fall in Love」をアカペラで歌えるかって言われたよ。それから、馬鹿になりきって、照れずにセリフを言えるかって。
Q: 「ダイヤルM」の話をしよう。グィネス・パルトロウはどんな人だった?
彼女はとても冷静で、本当に素晴らしい才能の持ち主だった。自分が何をしたいのか、自分をどう見せたいのかが、ちゃんとわかってるって感じだったな。
Q: もう一人の共演者、マイケル・ダグラスについて、何か驚いたことはあった?
撮影が、クリスマス直前でね。マイケルは一日中クリスマス・ソングを歌ってたんだけど、自分で歌詞を変えちゃって、それを撮影クルーにも歌わせたんだ。馬鹿げた歌詞だったよ。彼がそんなヘンな奴だなんて、誰も思わないだろ?
Q: この映画での、一番大きなチャレンジは?
画家の役だったんだけど、自分の周りに置いておくために、たくさんの絵が必要でね。その絵を自分で描かせてくれって言ったんだ。言ったはいいけど、大変だったよ。眠れなくなっちゃって。2週間で45点くらいの絵を仕上げたんだ。
Q: 「G.Iジェーン」では、ものすごく厳しい男の役をやってたけど、演じていて楽しかった?
威張り散らすのが? 最初はちょっと戸惑ったけど、役に入り込んだら、気にならなくなったよ。元々僕は、“黙って俺の言うことを聞け!” とか言うタイプの人間じゃないんだけどね。
Q: デミ・ムーアとのバトル・シーンは、かなり激しかったね。
やっていて面白かったよ。彼女は本当に、役に入り込んでいたからね。でも、ちょっと怖かったことがあって・・・僕のまたぐらを彼女が蹴り上げるシーンがあるんだけど、撮るたびに、“核心” に近づいてくるんだ。何回かは、実際に “命中” したよ。
Q: 彼女に関して、一番誤解されていることって何だろう?
みんなは彼女のことを、ただのビジネスに一生懸命な女性だと思ってるんじゃないかな。もちろんビジネスには長けている。だけど、彼女は同時にシャイで、あらゆる点でソフトな人だよ。
Q: 彼女が頭を剃った時、そこにいたの?
うん、見てたよ。撮影クルーは、一日中、そのシーンにかかりきりだったんだ。イベントみたいだったよ。みんな、自分のビデオカメラを持って来ちゃって。
Q: 最初の映画は「刑事ジョン・ブック―目撃者」だったんだよね。ハリソン・フォードについて、何か憶えていることはある?
彼は、“納屋を建てるシーン” に夢中になってたよ。そのシーンで、僕は彼に大工道具を渡さなくちゃいけなかった。彼に「なんとかを渡してくれ」って言われたんだけど、それがどの道具のことなのか、さっぱりわからなくてね。たぶん、彼はあの納屋を、ほとんど一人で建てたんじゃないかな。
Q: 「ある貴婦人の肖像」で、ニコール・キッドマンがあなたを振って、ジョン・マルコビッチを選ぶなんて、信じられないって人がいるんじゃないかな?
最後には、彼女はたぶん、僕のところに来たんじゃないかな・・・映画では描かれていないけど。ニコールは、あの作品ですごくいい仕事をしたよ。でも、みんな、彼女の演技のことなんか気にしてなかったみたいだね。
Q: 子供のころ、9年ほど南アメリカに住んでいたんだって?
そうだよ。11歳の時、こっちに戻ってきたんだけど、罵倒する言葉とか、スラング、流行ってる音楽なんかにビックリしちゃったよ。同年代の子供たちは、みんなブルー・オイスター・カルトやグランドファンク・レイルロードなんかに夢中でさ。僕は、隠れカーペンターズ・ファンだったんだ。学校へ向かう道で「トップ・オブ・ザ・ワールド」を口ずさんだりね。学校が近づくと、歌うのをやめるんだけど。
Q: 恋をして、馬鹿な行動をとったことはある?
ああ、馬鹿みたいなこと、やったよ。でも、それは価値のあることなんだ。若い時ってさ、恋に落ちると誰でもそうなるだろ。年を取ってくると、なかなかそうはいかないんだ。残念ながらね。
Q: 女性を口説く時に、ラブ・ポエムを贈ったことはある?
あるある(笑)。もう、二度とやらないけどね。それって、相手を怖がらせちゃうみたいなんだ。ちょっとおかしいんじゃないかって思われる。
Q: 役者が詩も書くっていうこと、からかわれるんじゃない?
書いた詩が良くなければ、言われてもしょうがないよね。でも、やりたいことを、やればいいんだよ。僕が「Ten Last Night」っていう詩集を出したのは、俳優として有名になる前だったんだ。だから、それはそれとして(俳優が書いたということは関係なく)きっちり独立していると思う。
Q: 人がビックリするような得意技は?
おむつ替え。
Q: 息子さんが小さかった頃、現実のあなたと、映画の中のあなたをごっちゃにすることはなかった?
ないんじゃないかな。息子が4歳くらいの時、撮影セットに来ていてね。弾丸をよけて、置いてある箱の向こうに飛び込むっていうシーンを見ていたんだ。撮り終わって彼の方を見たら、なんだか真剣な顔をしてるんだ。僕が本当に撃たれたって、心配してるんじゃないかと思ったよ。3テイク撮り終わってから聞いたんだ。「大丈夫かい? どうだった?」って。そしたら、指を3本立ててるんだ。僕が「3テイク目?」って聞くと、彼は言ったよ、「うん。絶対にそれがいいよ」って。
Q: 正解だった?
(笑)そのすぐ後に、監督が「3テイク目を使おう。絶対にそれがいい」って言ったからね。
Q: ダイアン・レインと共演した「オーバー・ザ・ムーン」を撮り終えたばかりだよね。どんな内容なのかな?
1969年の夏の話だよ。ユダヤ人の家族が、キャッツキルのバンガローに出かけるんだ。僕はその近辺に住んでいる男で、その家族を混乱させるっていう役どころ。
Q: どこかで自分が取り上げられていて、ショックを受けたことはある?
この間、マッド・マガジンを見たんだけど、「G.Iジェーン」のパロディが載ってたよ。それを見て、初めて自分が成功したって気分になったね。「G.Iシェイム(恥)」ってタイトルだった(笑)。SEAL志願者たちが脱落していくのが、肉体的にきついからじゃなくて、僕のおぞましいポエトリー・リーディングのせいだったっていうオチが、すごく気に入ったよ。