Salon.com  2003.10.24 原文
王になろうとした男

スコット・シル

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『ロード・オブ・ザ・リング』でアラゴルンを演じたヴィゴ・モーテンセンの独占インタビューをお届けする。彼はこのインタビューで、写真や独立系出版社、そして、なぜブッシュが歴代大統領の中で “サウロン” として歴史に名を刻むことになるのか、その理由を語ってくれた。

2003年10月24日

J.R.R.トールキンの熱烈なファンで、ここ数年、映画「ロード・オブ・ザ・リング」を堪能している人たちには、ヴィゴ・モーテンセンを紹介する前置きは不要だろう。彼はこの映画でアラゴルンを演じている。さすらいに身を置く王の末裔が、それまで慎重に避けてきたミドル・アースの王となる道を、いかに昇りつめていくのか。これが、いくつも織り込まれる『王の帰還』のサイド・ストーリーのひとつとなっている。『王の帰還』は、『ロード・オブ・ザ・リング』三部作の最後を飾る作品で、全世界(訳注:日本を除く)で12月17日に公開される。もしあなたが、この中身の濃いキャラクターであるアラゴルンを演じる前のモーテンセンについて、あまりよく知らないとしたら — ヒップホップ調で言うなら — ヤツを知る、今が絶好の時だ。

ピーター・ウィアー監督作品『刑事ジョン・ブック 目撃者』でスクリーン・デビューを飾ってから現在まで、モーテンセンは忙しい日々を送っている。ニューヨーク出身、先日45歳の誕生日を迎えたばかりの彼の出演作品は、ガス・ヴァン・サント(『サイコ』)、ショーン・ペン(『インディアン・ランナー』)、ジェーン・カンピオン(『ある貴婦人の肖像』)といった個性的な監督たちのものから、ブラッカイマーやバーンバウムが製作するハリウッド印の大作(『クリムゾン・タイド』『G.I.ジェーン』)まで、実に多岐にわたっている。南カリフォルニアのアート・シーンでの活動も長く、ベニスにある Beyond Baroque Literary Arts Center で行われる詩の朗読会に参加したり、バケットヘッドなど、L.Aで独自の音楽シーンを作り出しているミュージシャンたちと共演したり、定評のあるギャラリーで絵画や写真の個展を開催したりしている。

こうした活動と平行して、彼は、キュレーターであり、元スマート・アート・プレスの編集者でもあるピラー・ペレズと共同で、独立系出版社パーシバル・プレスを設立した。パーシバルが発足当初に出版したのは、モーテンセンの作品や、その他、まだあまり知られていない若手芸術家たちの作品だった。これらが人気を集めたことで資金が集まり、その後はL.A.のアーティストGeorganne Deen(ソニック・ユースのサーストン・ムーアとの共著)、『要塞都市LA』の著者マイク・デイヴィス、日本人アーティストの奈良美智など、様々な大物たちの作品を出版している。

「べつに特別なゴールを思い浮かべているわけじゃないんだ。そのままでは埋もれてしまうかもしれない情報やイメージを表現したいという気持ち以外に、イデオロギーもない」と、モーテンセンは説明する。最新作『Miyelo』は、自由にあふれ出す一連の思考の流れを、完ぺきに捉えた作品集である。ラコタ族が再現したゴースト・ダンス(これがもとで、米軍が大挙してサウス・ダコタのネイティブ・アメリカンを取り囲み、“ウーンデット・ニーの大虐殺”が起こったという、論議を呼んだダンス)をワン・テイクで撮影したパノラマ写真。この『Miyelo』に掲載されている作品は、11月8日までL.A.のStephen Cohen Galleryにも展示されている。そこには、アメリカの歴史に残された、比較的暗い、悲劇的な部分についての意味深い解説や、その背景が示されている。

しかし、歴史や経験の中の暗い部分を掘り下げることを、モーテンセンは誇りを持って行っているようだ。パーシバルが次に出版する『Twilight of Empire: Responses to Occupation』は、イラクの悪夢について書かれた本である。エイミー・グッドマン、ナオミ・クライン、マーク・レヴィン、マイク・デイヴィス、Kristina Borjesson 、そして多くの敵を作ったジョセフ・ウィルソン(訳注:ブッシュ政権に対する暴露記事を書いた元外交官)などが寄稿しているこの本は、ブッシュ帝国の核心部分にある、タガの外れた集団の傲慢さを明るみに出している。

そしてもちろん、近日公開になるものと言えば、ピーター・ジャクソン監督の素晴らしいヴィジョンで描かれた、J.R.R.トールキン原作の『王の帰還』がある。半世紀前に出版されてからずっと、この名作は何よりも、大きな力を手に入れ、悪用しようとすることの悲しさを伝え続けているのだ。この映画『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズが終わりを迎える頃には、ヴィゴ・モーテンセンは多彩なルネッサンス・マンから一歩先へ進み、真のスターとなるだろう。

Q: 『Miyelo』のアプローチの仕方というのは?

うーん、『ヒダルゴ』(馬の長距離レーサー、フランク・T・ホプキンズを描いた映画。2004年公開)っていう映画のワンシーンから生まれたアイディアなんだ。僕が演じる人物は、精根尽きて、水も希望もない砂漠フ中で幻覚を見るようになる。意識朦朧とした状態の中で、声が聞こえたり、人の姿が断片的に見えたりするんだ。だだっ広くて何もない景色の中、スチールカメラを使って、踊り手の一瞬のイメージを描くにはどうしたらいいんだろう、ゴースト・ダンサーのゴースト(写真でいうghost image)はどんなふうに見えるんだろうって思ったんだ。だから、これはほんとに実験的試みなんだ。もっと風景を入れたいと思っていたら、リチャード・カートライトが親切にも ハッセルブラッドのパノラマカメラを貸してくれてね。彼はこの映画の写真撮影を担当していたんだけれど、とてもすぐれたカメラマンなんだよ。

露出時間を長くしていって、いろいろな場所でワンロール撮影したんだ。太陽光線がかなり強かったから、おもしろいものができるんじゃないかと思ってた。うまい具合に、カメラで「やっちゃいけないこと」をわざとやって、おもしろいものができたっていう例だね。こんなこと、たまにしかないけど。実験だと意識して撮った写真だけど、できあがったイメージには偶然のいたずらもたくさんあるんだ。奇妙な斑点とか、思いがけない彩度やコントラストのバリエーションとか。撮影中にも見えなかったし、今でもよく説明できない不思議なものがね。露出時間が長いほど、驚きも多いよ。写真のように、ある程度操作可能で結果の予想もつくと思われている表現手段でも、出来上がりはミステリーという点がいいんだよね。どんな結果がでるか、どこまで行くのか、はっきりわからない場合もあるのさ。

Q: それってすごいよ。だって、ゴースト・ダンスのテーマにつながっていくわけでしょう。

そう、ぴったりなんだ。ゴースト・ダンスについて聞いて知っていることをヒントに始めたんだけど、より影響を受けたのは、このシーンのために真剣に準備する踊り手、歌い手たちの姿なんだ。これは以前サウス・ダコタで行われた踊りなんだけれど、今回はカリフォルニア砂漠の真ん中で、一種の幻、ゆがんだ記憶として再現しようとしたもので、ウーンデッド・ニーの再現の時と同じくらい、踊り手たちはとても真剣にこの儀式に取り組んだんだ。彼らの本当にひたむきな努力からは、ある種の雰囲気さえ生まれたよ。このシーンの撮影で、これ以上のことはなかったよ。踊り手たちの撮影が済んで、今度はダンスを見ている僕を撮影する段になって、それまで全く穏やかな日だったのが、急に一組の塵旋風と不思議な横風が吹いたんだ。そして、そのシーンの最終テイクを撮り終えた途端、風がぴたっとおさまったんだ。数秒間、人も物も、あらゆるものが静寂に包まれたよ。

Q: 何かに取り憑かれてるみたいだね。

そうなんだ。僕はこの出来事を忘れたくなかった。写真を撮る時も、遠くから観察するのではなく、自分もその中にいたい、あるいはせめて、この出来事のスピリットを感じながら写真を撮りたいと思ったんだ。

Q: パーシバルプレスについて少し話してくれないかな?きっかけは何だったの?

どんな会話だったかはっきりおぼえていないんだけど、出版社を始めたらおもしろいんじゃないかとピラー(ペレス)と話したんだ。どんなふうになるかなんて全くわからなかった。実際、小さい出版社はどこも苦労しているからね。元が取れれば大成功で、小さい独立系の出版社は長続きしないのがほとんど。成功するのは大変なことなんだ。大きな販売網もチェーン店も持ってないからね。アート、文学、思想に関する本を出版してみようかというアイディアだけで、特別なゴールを思い描いていたわけじゃない。いろいろなアーティストや詩人、写真家について、このままでは日の目を見ないかもしれない情報やイメージを世間に発表したいという気持ちだけで、他に主義主張があったわけじゃないし。作者やアーティストの思い通りの形で出版されることが(他では)まずないだろうという本を出版したかった。これは、本の体裁、内容、テーマについても同じ。それぞれの本の中身と体裁はできるだけ関連した形をとり、他の出版物と一緒にして考えたりせず、独自のものにしようと思ったんだ。

Q: 会社の名前はどこからきたの?

パーシバルの伝説には — 知ってると思うけど — 「自分の道を選び、進む」という考え方が出てくるんだ。騎士の一団が森の入り口にやって来て、それぞれの道を行く。彼らはすでにそこにある道をあえて選ばず、自分の道を切り開いていく。これが、この出版社を象徴する考え方なんだ。そして、このことを、僕らは一冊一冊の本について心がけているんだよ。

Q: ピラーとの共同経営はどう?

彼女はほんとにすごいんだ。一緒に仕事ができてうれしいよ。共同経営にも満足している。目指すところも同じだし。彼女がいなかったら、ここまでできなかったよ。彼女のおかげで何でもスムーズにいくし、アイディアは豊富、眼識もある。すみずみまで気を配ってくれるしね。

Q: 経営は順調にいってる?

仕事は山ほどあるよ。特に二年目の今年は、本をたくさん出したからね。でも、会社のデザイナー、ミシェル・ペレスのおかげで、システムも効率よくいってるよ。出だしが好調だと、本の数を一気に増やしたり、拡張のために共同経営者がほしくなったりする会社もあるけど、僕たちの会社は変わらないよ。しっかりした、中身のある質の高い本を確実に出版できるように、比較的小規模な会社でいることを目指しているんだ。手を広げすぎたり、他人に仕事を任せたりすると、印刷などの管理も含め、完成した本のコンセプトからかけ離れた本になってしまう。だから、会社が儲かって、それで様々な分野の本を出版できるとしても、創造性や質の管理がおろそかになるんだったら、失うことの方が大きいと思う。

translated by chica (序文) & estel (インタビュー部分)

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