Q: イラクについての新刊 『In the Twilight of Empire: Responses to Occupation』(訳注:「帝国の衰退:占領への反応」というような意味)はどう? アート本から政治的な本におおっぴらにシフトしているみたいだけど、その心配はないの?
全然そんなことはないよ。パーシバル・プレスが出すもう1冊の本、ということにすぎないんだ。自分たちとしては、時事問題にしろ、絵でもチェスでも、ブローガンだろうが動物病院だろうが、原則として何か1種類についての本を作リ始めるなんてプランはないんだ。社会政治的な論評や歴史本を作ることだけに限定したら、間違いなく自分たちがつまらなくなってしまうよ。今後もパーシバルの大部分はアート関係の本になると思うけど、もし面白そうな本であれば、例えば19世紀のロシア天文学についての教科書を出しても構わないのさ。マスタープランがなくても良いんだ。どんな本を出版するのかということを、他の人たちに対して正当化する必要がないのはいいよ。まず第一に、自分たちが楽しむためにやっているのであって、それから、願わくば他の人にも喜んでもらいたい。このアプローチには、ある種の誠実さがあると思うよ。
僕たちがやっていることを皆が気に入ってくれるだろう、なんて幻想は抱いていない。もし、アーティストや作家にきちんと尽くして、彼らが完成品に満足したら、自然に人々が興味を持ってくれるのではないかと単純に望んでいるんだ。今のところはそうなってるよ。最終的にはすべての人を満足させることにはならないだろうし、パーシバルを弁護して言うと、将来的な思惑なんて全くないし、今言ったように、芸術的に何か特定の路線でいっているわけですらないんだ。そうだねぇ、例えば誰かが、米英主導の...
Q: 共同体?
そう、共同体。上手く言い表している言葉だね。もし誰かが、イラク侵略と継続している占領についてのエッセイ本を手にして、そしてパーシバルの本の中でそれしか読まなかったとしたら、「なるほど、“そういう” 出版社なんだ」って思うかもしれない。だけど、願わくばウェブサイトをチェックして、広範囲な種類の本を出していることを見て欲しいよ。この本に含まれる情報は、残念なことに多くの人が読む機会がなかった類のものなると思うよ。だからといって、自分たちが活動家だとは思っていないんだ。人々の表現の自由を守る役割をしているという以外はね。
Q: アメリカ国民の多くが、イラクにあげるお金の一部を “ローン” とみなして、石油での歳入を付けて返金するべきだと思っているけど、その事実についてどう思う?
(副大統領のディック)チェイニーは、この前、大勢の共和党員にこう演説していたんだ。アメリカの納税者は、イラク復興のために一銭も払うことにはならない。イラクは自分たちでやらなくてはいけないってね。これは彼が非常に意識的に言っている嘘というだけでなく、本当であろうと嘘であろうと、この声明は現政権がとてつもなく傲慢だということを体現していると思う。イラクに行って、何の理由もなくムチャクチャなことをやらかした。まあ、一握りの人たちにとっては経済的な理由があったけど。そして、ありとあらゆるグローバル・コミュニティを著しく害してきたんだ。
国連は多くの問題を抱えているし、同様に多くの偽善があるのも事実だけど、アメリカ政府の細切れで利己的なやり方ではなく、むしろ彼らにイラクの問題を解決して欲しい。最初にイラクを侵攻した時に、国際社会は深刻な懸念を表明した。誰もが知ってるように、アメリカ政府はそれを嘲笑し、完全無視を決め込んだ。それなのに、自らの手に負えなくなった今になって、合衆国大統領とその政権が、国連と個々の豊かな国に対して復興に協力よう勧告するのは、馬鹿げているのと同じくらいに恐ろしくなるほど傲慢だよ。これらの問題について、アメリカ国民が真の解決のための対話を持つことや、偏りのない情報を得ることはすごく難しい状況なんだ。ある意味、全体像を示そうとか、より多くの情報や対照的な視点を提供しようという意思のある、小さな会社や個人が、特に今の世の中では貴重な存在だと思うよ。石油の重さと同じ値打ちがあるのさ!(笑)(訳注:英語では「千金に値する」という意味の "worth its weight in gold" という表現があります。ヴィゴはこの gold を oil にもじっています。)
Q: 政府が理解できる言葉で話さないと!
うん。でも、「金の重さと同じ値打ちがある」って言ったら、少し時代遅れだって思う人もいるかもしれないだろ?
Q: それって、19世紀だもんね。
ウランの重さと同じ、かな?
Q: 最近の政治的不安定さのせいで、旅行するのが極端に難しくなっている?キューバにも行ったし、戦争が始まる前にはイラクにも行こうとしていたよね?
去年、イラクとイスラエルを訪れる計画を立てていたんだ。写真を撮ったり、土地の人々を知るために、少しは自分の目でそれらの地を見てみたくてね。残念ながら、仕事上の義務や個人的な責任があって、行くことができなかったんだ。その後、ショーン・ペンや他の人たちが行くことになっているっていうのを読んだよ。アメリカの主流のメディアは、彼のことを “バグダッド・ショーン” などと呼んだりして、ショーンがイラクに行ったことに対して非常に批判的だったんだ。この国を動かし、入念かつ巧妙に作られたプロパガンダをメディアに提供している人々は、世界や、その中でのアメリカ政府の役割について純粋に好奇心を示すこと — 僕はショーンの旅をそう見ているんだけど — それを即座に、しかも自動的に愛国心がないとレッテルを貼るんだ。
自分を教育するためにイラクに行きたい、あるいはどこか別の場所に行きたいと思うショーンの、あるいは他の誰だったとしても、それのどこが愛国心がないって言うんだ?この地球上に住む人々、同じ人類を訪ねてみたいと思うことのどこが非国民なんだ?是非とも、自分で行って真実を見つけ出すべきだよ。それができるほど運が良いならね!観察したことを持ち帰って、共有するべきだ。サハラ砂漠で映画 『Hidalgo』の撮影をしていたモロッコから戻ってくると、9月の終わりまでには、イラク侵攻がすぐそこまで来ていることは誰の目にも耳にも明らかだったように思うよ。ビジネスの意思決定と打ち合わせは済んでいて、まるで映画のように、ショウはとっくに予算化され、計画されていたんだ。
金は既に計上されていて、兵士や海兵隊にとっては運の悪いことに、映画のスケジュールのように運営されたんだ。軍司令官や指揮官は、軍事戦略、それに戦場での指導者に要求されることに関してこれっぽっちも知らない(国防長官のドナルド)ラムズフェルドのような人々に命令されていた。彼らは、兵士たちが保護ラインや補給ラインを越そうがどうが構わないから、一日に何キロか一定距離前進するよう指示していたんだ。そんなのは馬鹿げてるよ。結局、砂漠での任務にベストを尽くそうと頑張っている兵士たちにとって、悲劇的な結果を招くことになったんだ。
独立戦争の時に、明るい赤のユニフォームを着たイギリス兵を、アメリカの森で行進するよう派遣するのと同じくらいにマヌケなことだよ。結局、植民地軍の狙撃兵に狙い撃ちされるだけなんだから。そもそもアメリカ軍が行くべきではなかったんだ。行かなくてはいけない本当の理由もなかったんだ。ブッシュファミリーと、その友人のエゴと欲以外にはね。もちろん、人がそう指摘すると、サダム・フセインとテロリズムを擁護している、卑劣な裏切り者だって非難されるんだ。
Q: 愛国心がないってどやされるよね。
こんな考えが広く宣伝されてるんだ。「どうして君が知りもしない、こうしたことについて話すんだ?政治をやってるわけでもないし、上院議員でも下院議員でもない。君にはこのことについて話す資格なんてないんだ。君は俳優じゃないか。あるいは、教師、タクシーの運転手、看護士じゃないか。したがって、自分たちの代表として選んだ政府の道徳的な意思決定について、心配したり懸念を表明したりする権利はないんだ。」 もちろん、これは馬鹿げた考えなんだけど。
Q: だれが彼らの給料を払ってると思うんだ?
その通り。明らかに、人には自分の意見を表現する権利があるんだ。誰しも、どこの出身だろうと、オープンマインドであり続けるよう努力しないといけない。計算し尽くされたメッセージを四六時中浴びている時には、それは容易なことじゃないんだ。現政権は、あらゆる意味で、世界で最も強力で効果的な広報会社といえるだろう。“国土安全保障” という言葉を耳にした時、即座に Vaterland が頭に浮かんだよ。赤いライトが点滅し始めて — “祖国!祖国!祖国よ!全てに冠たるドイツよ!” (笑) 分かるだろう?(訳注:Vaterland はドイツ語で「祖国(特にドイツ)」を意味します。これは、大戦後は歌われなくなったドイツ国歌の1番の歌詞のようです。ヴィゴはこの部分をドイツ語で言っています。)
こういった類の名前や言葉ですら、脅威となり混乱させるものになり得るんだ。Patriot Act(愛国者法)と聞くと、人は直感的に危険だと感じるし、政府が個人の権利や自由な意思に対するコントロールを拡大しようとしているのではないかと心配するよね。愛国者法が本当は何を意味するのか、少しでも本を読んだり調べたりして、この法制定の裏にある意図が分かった時、不安が的中したと気付くんだ。愛国者法は恐ろしい響きがするけど、実際の中身は名前よりもさらに恐ろしいものだったんだよ。これについて読んで、知識を得ることができるけど、たいていの人はそうしない。たいていの人は、権利章典が何かすら知らないのに、そのフレーズだけをやたらと使っている。権利章典が何なのか、ということすら知らない政治家や官僚が大勢いるんだ。
Q: 間違いなく、今の彼らは知らないね。
今の成り行きからすると、権利章典は、注釈や事例や歴史的な脚注だらけのものなってしまうだろう。その多くは、無効になったり、完全に消されてしまうという重大な危機に瀕している。使われた言葉や策略 — 国土安全保障法、愛国者法の制定や、国旗や他の国の象徴を持ち出すこと — は、すべて “大きな嘘” の技巧だよ。例えば、現政権がサダムフセインを、正当な理由もなく9/11のテロ攻撃とアルカイダに巧妙に結びつけたやり方は、真っ赤な嘘なんだ。
とてつもない嘘だよ。だけど、何度も何度も繰り返されれば、いい加減な否認や釈明がずっと後になってなされようが、たとえメディア自体が撤回しようが、関係ないんだ。人々は最初の嘘を覚えて、それを信じるようになる。もし、頭が3つあって、ウサギとセックスする人がいるって言ったら、人は「とても馬鹿げた話に思えるが、少しは真実があるに違いない」と思うだろう。たとえ翌日、「ここにその人の写真があります。頭2つを外科手術で取り除いた痕跡は見えません。明らかに、頭は1つしかありません。それに見える範囲には、ウサギはいません。」と言ったとしてもね。(笑)
ちょうどこの前、フセインは9/11に関係していないのを知っていた、とブッシュが言ったのを新聞で読んだだろう?まあ、そう言うのは構わないけどさ。こんなにも時間が経ってから、不要な苦しみや破壊を引き起こした後、それにアメリカに対する悪意が生まれた後の今になってね。だって、戦争中も戦後も、ブッシュがこれまでの演説の中で何度フセインとアルカイダを意識的に結び付けてきたかなんて、数え切れないだろ。ブッシュはずっとそうしてきたし、命を失ったり、取り返しのつかない傷を負った一般のアメリカ人やイラク人については言うに及ばず、イラクだけでなく、アメリカに対する信頼やイメージ、国際社会での立場に対して、信じられないほどのダメージを与えてしまった後になるまでは、何も撤回したりしなかったんだ。今さら言うなんて遅すぎるよ。頭が3つあってウサギとやる男の話について、(新聞の)14ページ目で撤回するみたいだ。今さら遅いって!その男は一生その話を否定し続けることになるんだ。シャツの襟を下げて、傷跡がないことを見せてまわりながらね。
Q: 笑える話だね。だけど、それは言葉がいかに強力かってことも示しているよね?
歴史について言うと、外交、環境問題、経済、一般市民への関心、という点についてのブッシュの実績は・・・ 歴史的に見ても、大統領として最低の位置づけに値するようなことしか思いつかないね。アメリカのすべての歴代大統領を考えても、この大統領が優れていたとみなせるのは、広報活動だけだよ — 汚い仕事を片付けるために、国民にとんでもない嘘を飲み込ませるということだけだ。